世界各国は国策として5Gを推進しています。
アメリカと中国の5G戦争とも言われるファーウェイを巡る争いは、5G通信がいかに国家にとって重要なのかを物語っています。
では、日本政府は5Gに対してどのようなスタンスで拡大発展を期待しているのでしょうか?
総務省が2019年6月に発表した第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望から、国が考える5G通信インフラの展望と、全国展開への道、さらにはローカル5Gの普及計画などについて詳しく解説していきます。
目次
総務省が5Gに期待する分野
総務省が5Gに期待しているのは、5Gによって「スマホが速くなる」というだけではありません。
5Gによって進展する分野は様々な産業に及んでいます。
第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望では、具体的に以下の6つの分野での活用を期待しています。
- 救急医療
- 農業
- 建設現場
- 防災・減災
- 地方での移動手段
- 買い物
総務省が5Gによる大きな変革を期待する6つの分野の問題点と5Gによるソリューションについて詳しく解説していきます。
救急医療
5Gによって救急医療現場の変化が期待されています。
近年、救急出動件数は右肩上がりに増えており 、平成30年の出動件数は約660万件と過去最高を毎年更新しています。
5Gになると遅延性がなくなり、遠隔地からでも緊急治療を行うことができるようになります。
救急車や救急ヘリなどの中で遠隔手術を行うことができるようになれば、専門医が離れたところから適切な処置を施すことができるようになります。
農業
5Gが農業分野でもイノベーションを起こすことを総務省は提示しています。
農業就業人口は65歳以上が全体の6割、75歳以上が3割と農業従事者の高齢化が進んでいます。
5Gの多接続性、低遅延性を生かせば、生産現場への多数のセンサー設置、農機の遠隔操作などが可能になります。
これによって、農業用センサーの設置、給餌ロボット、散水・薬剤散布ドローンなどが農業現場に導入できます。
この実現により、自宅からの農作業管理が可能になるでしょう。
高齢者が自宅にいながら質の高い農業を実現することができるようになります。
建設現場
5Gは建設現場でも大きな変化を起こすことが期待されています。
日本全体で高齢化は深刻ですが、建設業は他の業種と比較してさらに高齢化が深刻な業種です。
平成28年時点で、55歳以上の割合は約34%であるのに対して、29歳以下は約11%と他の業種よりも高齢化が深刻です。
5Gになれば遅延がなくなるので、様々な建設重機などを遠隔操作できるようになります
ドローンを活用した高精度な測量や建機の遠隔・自動操縦等が実現すれば建設現場の仕事のやり方が変わると総務省は期待しています。
防災・減災
5Gは防災・減災の分野でも社会を大きく変えることが期待されています。
言うまでもなく、近年日本では地震や水害などの多くの災害が発生しています。
遠隔操作による災害現場での遠隔医療はもちろん、5Gは減災にも寄与するでしょう。
例えば、街の中に多数設置された高精細な映像センサーによりデータを収集、活用することで、リアルタイムに災害情報を網羅的に把握することができます。
収集・分析した情報から被災者に最適な避難経路情報を迅速に届けることができるようになるため、「災害に強い社会」の実現を期待することができるでしょう。
地方での移動手段
5Gは交通手段、特に地方都市での交通手段の変革にも期待されています。
乗合バスの廃止など、地方では公共交通手段の減少が深刻です。
ここ数年で1万キロ以上の乗合バス路線が廃止されており、今後もその流れは止まりそうにありません。
5Gには遅延がほとんどないので、自動運転の実現が期待されています。
自動運転システムが実現することで、公共交通機関が利用しにくい地域でも、自動運転タクシーを呼び出し、過疎地域においても好きな時に好きな場所に出かけることができるようになります。
5Gによって高度モビリティ社会の実現を総務省は提唱しています。
買い物
5Gによって買い物のしかたにも変革が起こることが期待されています。
5Gによって身のまわりのあらゆるモノがインターネットにつながる本格的なIoT時代が到来すると言われています。
例えばスーパーで全ての商品にセンサーを設置することで、無人レジの実現、センサーが在庫状況を把握し商品を自動補充、購入した商品の賞味期限の把握と消費者への通知などが実現できる可能性があります。
総務省は5Gによって買い物や小売店の効率化の実現も提唱しています。
ちなみに総務省は5Gによる社会変革について動画を作成しています。
映像で未来の社会をイメージできるのではないでしょうか?
総務省主導ですでに5Gの実証実験が始まっている
総務省は2019年に「5G利活用アイデアコンテスト」を開催して地方発のユニークな利活用アイデアを募集しました。
その中には、「クレーン作業の安全確保」や「5G+AR+AIによる音の視覚化」「5G×BodySharing技術による観光イノベーション」といったもの
「雪害対策」「濃霧中の運転補助」「ゴルフ場でのラウンド補助」などの地方都市の抱える課題を解決するもの
「酪農・畜産業の高効率化」「選手と観客の一体感をもたらすスポーツ体験」「高齢者の見守り・行動把握」など、産業やエンターテイメントをさらに効率化するもの
さらには、「ドローンによるスポット街燈+警備サービス」「災害時に避難誘導を担うペットロボット」「サイバー空間アバターを使った自律協調型ドローン」などの未来都市を実感できるようなものまで様々です。
5Gの産業応用では、私たちの「あったらいいな」を超えるアイディアが数多く応募され、そして実際に実証実験までスタートしているものも多数あります。
大手キャリアに5Gの周波数を割り当て
5Gの普及には大手キャリアが5Gの通信網を構築することが欠かせません。
総務省は5Gに対して3.7GHz、4.5GHz、28GHzの3つの周波数を合計10枠をキャリアに対して用意しました。
周波数 | 枠数 |
---|---|
3.7GHz | 5枠 |
4.5GHz | 1枠 |
28GHz | 4枠 |
この枠を全国展開のスピード感や基地局設置数などによってキャリアを評価した上で、割当数を決定しています。
総務省がキャリアを評価するための基準を理解することによって、今後の5G通信網が全国的にどのように構築されていくのかを知ることができます。
大手キャリアへの周波数割当の審査基準について詳しくおさらいしていきましょう。
総務省が考える5G全国展開のイメージ
総務省は日本地図を10km四方のメッシュに区切って、メッシュ毎に5Gの高度特定基地局を整備することで、日本中に5Gの広範な5G通信網を構築する計画です。
具体的には以下の計画で総務省は5G通信網を日本中に網羅することとしています。
- 全国及び各地域ブロック別に、5年以内に50%以上のメッシュで5G高度特定基地局を整備する。(全国への展開可能性の確保)
- 周波数の割当て後、2年以内に全都道府県でサービスを開始する。 (地方での早期サービス開始)
- 全国でできるだけ多くの特定基地局を開設する。 (サービスの多様性の確保)
- MVNOへのサービス提供計画を重点評価(追加割り当て時には提供実績を評価)
5年以内に50%以上の範囲で5G基地局の整備を行い、周波数の割り当て後には2年以内に全都道府県でサービスを展開するという計画になっています。
実際にドコモは2020年6月には全都道府県でサービス開始予定を発表していますし、基地局整備で遅れているソフトバンクや楽天モバイルも2年後にはなんらかの形で全都道府県でのサービス開始をしなければならないでしょう。
さらに、総務省は4番目の評価基準として「MVNOへのサービス提供計画を重点評価」をあげているので、将来的にはMVNOでも5Gが利用できる見込みです。
「格安5G SIM」なども登場するかもしれません。
- 5年以内に日本国土の50%に基地局を整備
- 2年以内に全都道府県で5Gを実施
- 将来的にはMVNOにもサービス提供
これが総務省の5Gの基本整備計画です。
キャリアの評価基準
総務省は、各キャリアへ周波数を割り当てるにあたって、割り当て数に関する審査を行いました。
総務省がキャリアを評価する基準は以下の3点です。
- 「全国への展開可能性の確保」→ 5Gを展開する可能性を広範に確保できているかを評価
- 「地方での早期サービス開始」→ 全都道府県におけるサービス開始時期を評価
- 「サービスの多様性の確保」 → 全国における特定基地局の開設数や5G利活用に関する計画を評価
総務省の5G通信網計画やキャリアの評価基準を受けて、各キャリアな5G通信網の整備計画を以下のように発表しています。
ドコモは2024年までに約8,000億円を投資して、97%のカバー率を実現する予定です。
KDDIは約4,600億円を投資して93%のカバー率を実現予定、ソフトバンクと楽天は投資額が少ないので、総務省の「50%以上」という基準をギリギリ超える程度の見込みとなっています。
2024年になってもソフトバンクや楽天モバイルでは、地方で5Gが繋がらない場所が多いかもしれません。
また、各社MVNOサービスへの提供も計画しています。
キャリアの評価プロセス
総務省はキャリアの整備計画を以下のプロセスで評価して周波数の割当てを実施しました。
各社が最低限の基準を満たしているかをまず審査し、その後に各社の計画を比較して順位を決定。
その後、希望順に周波数を割り当てていくという流れです。
割り当ての結果
上記の基準からキャリアへの周波数の割当審査が行われ、結果的には以下のように割当られました。
評価が最も高かったのがドコモです。
ドコモは3.7GHzと4.5GHzと28GHzを1枠ずつの合計3枠、KDDIも3枠、ソフトバンクは3枠希望でしたが、2枠へ減らされてしまいました。
これはすでに始まったソフトバンクの5G通信網を見れば仕方がないと言えるかもしれません。
2020年3月にソフトバンクの5G商用サービスは始まりましたが、ソフトバンクはキャリアの中でも通信エリアはダントツの狭さで、東京の人でも東京駅周辺でなければ利用することが難しいような状況です。
また、まだ5Gサービスが始まってもいない楽天モバイルもソフトバンクと同じく2枠に留まりました。
総務省のローカル5Gについての取組
総務省の第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望では、ローカル5Gについても言及されています。
ローカル5Gについて割り当てられる枠は4.5GHz帯と28GHz帯の2枠です。
このうち、28GHz帯についてはすでに申請受付を開始して、実際に仮免許を取得した事業者も存在します。
総務省が考えるローカル5Gの活用と、普及計画について詳しく解説していきます。
総務省が期待するローカル5Gのソリューション
ローカル5Gは、地域の企業や自治体等の様々な主体が特定の場所のみで5G通信網を構築できるシステムです。
このため、通信事業者によるエリア展開がすぐに進まない地方などの地域でも独自に5Gシステムを構築・利用することが可能になり、地域による通信格差を是正することができます。
総務省はローカル5Gの活用事例として以下のようなものをあげています。
ローカル5Gの事例 | 実施事業者 |
---|---|
スタジアム | スタジアム運営者 |
遠隔医療 | 医療機関 |
4K 8K動画 | ケーブルテレビ |
建機遠隔制御 | 建設業者 |
スマートファクトリー | 製造業者 |
テレワーク | 自治体や企業 |
河川等の監視 | 国や自治体 |
自動農業 | 農家 |
このように、ローカル5Gは様々な事業者が独自に5G通信網を特定のエリアだけで構築し、業務の効率化やイノベーションを起こすことが可能になります。
2019年12月28.2-28.3GHzの申請受付開始
すでにローカル5Gの申請受付は始まっています。
東京では以下のような事業者が申請しています。
- 東京都:臨海部のテレコムセンターの産業技術研究所で、自由にテストできるよう、インフラを作りたい
- NTT東日本:eスポーツなどでの活用も検討、インバウンド向けに空港、港湾、酪農でのトラクターの自動運転
この他、NECやケーブルテレビ各社、ジュピターテレコム、富士通などが申請を行なっています。
その他の領域は2020年夏頃に申請受付予定
さらに、28.2-28.3GHzについては2020年夏頃に制度化を行い、受付を開始する予定です。
ローカル5Gに関しては、当面は屋内または敷地内での運用と決められていますが、今後は建設現場や農家でも利用できるように屋外でも利用できるようになるでしょう。
今は、そのような小さな事業者でローカル5Gを利用できるようにインフラ整備を行う側の大企業が申請を行なっている段階で、2021年くらいまではそのような状態が続き、2022年くらいから少しずつ本格的な産業応用が始まっていくことが予想されます。