5Gによって農業も大きく変わることが期待されています。
従来もセンシングやビッグデータなどの活用に効率化を試みてきた農業ですが、今後5Gが本格利用されれば農業は劇的に変わる可能性があります。
「力仕事で辛い仕事」というのが当たり前だった農業が、モニターの前に座っているだけで作付から収穫までできてしまう可能性があります。
農家は後継者不足に悩む必要もなく、もしかしたら東京に出ていった子供が東京のパソコンから農業ができる時代が来るかもしれません。
スマート農業と5Gの未来像や経済効果について解説していきます。
目次
農業分野における5Gの活用法
農業分野において総務省は、ICIや5Gが以下の2つの分野で活躍することができるとしています。
- 生育状態・気候・市場動向まで全てをモニタリング
- ドローンや無人農機を5Gで遠隔操作
ビッグデータやセンシングを用いて、生育や市場動向を管理するだけでなく、ドローンや農機を5Gを使用して遠隔操作することができるとしているのです。
具体的に、5Gが農業分野でとのような役割を果たしていくのか詳しく見ていきましょう。
生育状態・気候・市場動向まで全てをモニタリング
作物の生育状態や気候などをITがモニタリングして、適切な温度や水の量などを調整します。
作物の生育状態や気候の状況に合わせて水や温度を管理することはこれまでは「長年のカン」に左右される部分が大きかったのが実情です。
しかし、これらの情報をAIが集めてビッグデータ化することによって、経験値がない農家でも適切な水分管理や温度管理を行うことができるようになります。
また、農作物は市場価格に大きく左右されるものです。
市場価格の予測など年の気候状況や経済状況に合わせてAIが行うことができるようになれば、農作物の値崩れを起こすことなく適切なタイミングで収穫期を迎えることができる可能性があります。
ドローンや無人農機を5Gで遠隔操作|人手は不要になる
5Gになると遅延性が無くなります。
遠隔で無人農機による作付けや収穫、またドローンによる農薬散布を行うことができるようになります。
これまで農業の中で大きく人手が必要だった分野を遠隔で行うことができるようになるので、農業に人手は不要になり、農家の後継者不足問題も解決することが期待されています。
5Gによる農林水産分野への経済効果は4,268億円
総務省によると、5Gによる農林水産分野の経済効果は4,268億円としています。
総務省は2013年に「ICT 分野の革新が我が国経済社会システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」という報告書を出しており、ここでは実際にICT化によって成功した事例からどの程度の経済効果があったのかを算出しています。
この事例をもとに総務省は5Gによる農林水産分野の経済効果は4,268億円としているのです。
ICTによってどの程度の経済効果があったのか詳しく見ていきましょう。
活用事例
総務省の活用事例では米農家とレタス農家の2つのケースが挙げられています。
米農家
以下は実際に米農家で衛星写真を活用した事例です。
取り組み | 効果 |
---|---|
衛星写真の解析によって、米旨味を与えるタンパク質含有量を測定し、ビッグデータ化 | 高品質米の仕分け作業が容易になった |
次年度以降の施肥などの計画に活用 | 対象地域全体の品質が向上 |
米がブランド化された | 米60kgあたりの値段が13,000円から42,000円へ向上 |
レタス農家
レタス農家では栽培条件をセンサーによってデータ化する取り組みが行われています。
取り組み | 効果 |
---|---|
栽培条件をセンサーによってデータ化 | 栽培効率が上昇し、1日の平均レタス出荷量が1,920株から2,940株へと大幅に上昇 |
人件費・肥料代など全ての生産コストをデータ化 | 1kgあたりの生産コストが800円から700円へと減少 |
農業のICT化によって、生産コストの削減や生産効率の上昇、さらにブランド化まで実際に測れていることが分かります。
センシングやビッグデータ活用による経済効果は3,968億円
上記の米農家の活用事例を全国の稲作農家の10%が採用した場合、経済効果は3,968億円と総務省は試算しています。
衛星写真で取得したデータを活用して、日本全国のお米の高品質化を図ることができ、米のブランド化を図ることができれば、農家はこれまで以上に儲かる業種に変わる可能性があるのです。
生産性向上によるコスト削減効果は300億円
上記のレタス農家の事例は日本全国の野菜農家でも活用することができます。
生産性向上により、1%のコスト削減を図ることができれば、日本全体の野菜の生産額3兆円の1%である300億円を削減することができます。
価格上昇は市場の動向や他の農家にも左右されますが、コスト削減はどの農家でも実践することができます。
日本の野菜農家はICT化によって300億円の経済効果を生み出すポテンシャルは確実に持っていると言えるでしょう。
スマート農業に向けた取り組み
すでに農林水産省はじめとして、民間の株式会社や農業法人、また大手携帯キャリアもスマート農業に向けた取り組みを始めています。
国や企業が取り組むスマート農業の取り組み事例をいくつかご紹介していきます。
農林水産省「スマート農業実証プロジェクト」
農林水産省は2020年から「スマート農業実証プロジェクト」を開始します。
このプロジェクトついて農林水産省の「スマート農業実証プロジェクトの概要」には以下のように記載されています。
現在の技術レベルで最先端となるロボット・AI・IoT等の技術を生産現場に導入し、理想的なスマート農業を実証する取組を支援します。
自動走行トラクタ、ドローン、無人草刈機、収穫ロボット、経営管理システムなどの最先端のロボットやAI、IoTなどの技術を活用してスマート農業に取り組む事業者を補助金によって支援する取り組みです。
このプロジェクトでは取り組みにかかる直接経費、一般管理費、消費税相当額に対して補助を受けることができるもので、令和2年の予算要求額は35億円となっています。
全国のスマート農業がこのプロジェクトによって育成されていくと思われます。
九州スマート農業マッチングフェア
さらに、農林水産業は農家とIT業者とのマッチングも行なっています。
2020年1月30日に農業者に最新の農業技術を紹介し、農業者とIT企業が直接情報交換する機会が得られるマッチングミーティングを行いました。
まさに、農業のIT化は5G元年の2020年から国をあげて本格的に始まろうとしています。
au×豊岡市スマート農業プロジェクト
さらに民間企業と地方自治体もスマート農業への取り組みを開始しています。
豊岡市では大手携帯キャリアauと「コウノトリ育む農法 (無農薬栽培)」という取り組みを行なっています。
コウノトリ育む農法 (無農薬栽培)とは無農薬栽培のことで、雑草対策として通常よりも深く水を張り、害虫を食べてくれるヤゴやカエルを増やすため通常の田んぼよりも長い期間水を張る必要があります。
このプロジェクトでは、豊岡市の農家が管理する水田に通信回線を利用した水位センサーを設置しました。
農家がスマートフォンなどで水位を確認できるので、見回りの手間を圧倒的に削減することができます。
さらに水位データに異常値が確認できた時は自動でセンサーが反応し農家に伝えてくれます。
5Gで農業は産業になる?
「農家の後継者不足」というのは、どの地方にいっても聞かれる話です。
「若者の就農」ということが少し前からクローズアップされていますが、実際には就農者よりも圧倒的に離農者の方が多く、実際に驚くべき数字で農業就業者人口は減少しており、耕作放棄地も急増しています。
5Gはこのような農業の危機の救世主となり、農業を産業へと変化させる可能性を秘めています。
農業の現状と5GやICTが果たす役割について考察していきます。
農業就業者人口は10年で100万人減少
農林水産相のデータによると農業就業人口の現象は非常に深刻です。
平成22年 | 27年 | 28年 | 29年 | 30年 | 31年 | |
---|---|---|---|---|---|---|
農業就業人口(万人) | 260.6 | 209.7 | 192.2 | 181.6 | 175.3 | 168.1 |
なんとこの10年間で農業就業人口は100万人近く減少しているのです。
農家がどんどん高齢化し、後継者が見つからない結果として高齢化とともに農業就業人口は減少しているのです。
日本の高齢化はさらに深刻化する見込みであるため、今後のさらなる農業人口の減少が危惧されています。
再生不可能な耕作放棄地は5年で1.3倍以上に
同じく農林水産省のデータによると耕作放棄地の面積も広がっていることが分かります。
平成25年 | 26年 | 27年 | 28年 | 29年 | 30年 | |
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荒廃農地 | 27.3万ha | 27.6 | 28.4 | 28.1 | 28.3 | 28.0 |
うち再生利用不可能 | 13.5 | 14.4 | 16.0 | 18.3 | 19.1 | 18.8 |
たったの5年間で再生不可能な耕作放棄地は1.3倍以上に増えています。
農業就業者の減少とともに、耕作されずに放棄され、再生不可能になっている農地が今確実に増えていることが分ります。
スマート農業と5Gで少人数で持続可能な農業へ
日本の農業を支えてきた家族経営の農家は後継者不足に悩んでいます。
実際に後継者が見つからずに耕作放棄地になっている農地も多数存在し、農家の中には「先祖代々の田んぼを荒らすわけにはいかないから、お金はいらないから作って欲しい」という人もたくさんいます。
このような現状から、政府も近年は農業の集約化を図ってきました。
今後、5Gによる遠隔操作などが可能になれば、さらに少ない人手で多くの耕作地を管理することができるようになります。
もしかしたら、実家に置いてある納期を東京のパソコンから操作をして農業ができる時代がくるかもしれません。
5Gを活用した農業で、農業には「長年のカン」や「重労働」「多くの人手」というこれまで当たり前であったものが不要になりつつあります。
経験を積まなければ得ることができない知識もビックデータが集積し、5Gで操られた機械が作業してくれます。
これからは少人数で日本の農業を持続させることができる時代が来るでしょう。
農業が産業になる時代。それは5Gが本格化すればすぐそこではないでしょうか?