総務省は昨年、5G技術に係る利活用アイディアコンテストを開催しました。
コンテストには全国の企業や自治体、大学から計735組が参加し、5Gが導く未来のビジョンを示しました。
そして今年、そのコンテストの結果を基に、全国で実証実験が行われようとしています
この記事では、最新の実証実験が目指すものと、その内容を解説していきます。(全3回+番外編/第2回)5Gが活躍できる分野を探る手助けになれば幸いです。
第2回では雪害対策、霧対策、ゴルフ場でのラウンド補助についての5G実証実験をご紹介していきます。
目次
雪害対策
- 発案者:福井県永平寺町総合政策課
- 技術目標: 複数の基地局、端末を同時に、かつ移動しながら運用して、平均1Gbps以上の超高速通信を維持。
豪雪は深刻な災害です。
例えば、平成30年度には、破壊的なイメージが伴う台風よりも雪の方がより多くの死亡者を出しています。
特に被害の大きかった福井県では、1年で153億円以上の除雪コストがかかりました。
雪害の現状
福井県永平寺町では、積雪が10㎝を超えると行政から業者に除雪指示が出されます。
しかし積雪量は職員の手動計測で行われます。
朝には道路が使えるよう深夜に除雪する必要がありますから、計測は深夜2時頃。
それから作業するスタッフの負担は相当なもので、かつては過労死者も出ています。
民間でも、雪下ろし作業中の転落死が毎年発生し、雪で隠れた側溝や水路に落ちる事故も多発しています。
1日700件以上殺到する問い合わせをマンパワーで強引にさばいている状況です。
5G技術を活用した改善案
永平寺町は、明確かつ遠望された活用ビジョンを打ち出しています。
コンテストの提出資料からは、被害状況(=現状の問題点)を具体的に整理している自治体の真摯な姿勢が伺えました。
大まかな計画は以下の通りです。
- 積雪量の測定をセンサーで自動化
- 算出された除雪ルートに沿って、遠隔操作で除雪車を走らせる
- 除雪車に搭載されたカメラで道路の破損の有無、事故車がいないかを確認する
また、路面データの蓄積により車両制御の精度を上げる - 住宅地をブロックに分け、ドローンの集中運用で一斉に屋根の雪下ろしを行う(ブロック単位で行うのは、落とした雪をトラックで効率よく回収するため)
- 積雪データを市民に公開。更にAIによる自動対応システムを導入して問い合わせの対応コストを減らす。
超高速通信、超低遅延、移動する大量のデバイスの同時接続など、5Gの特性がフルに求められるハードな提案です。
このうち、除雪車の遠隔操作は、永平寺町において、4G環境でも実証実験が行われています。
つまり、相対比較が可能だということです。
4Gでは1秒以上の遅延があったと発表されていますが、5Gが現場をどのように変えるのか、注目が集まります。
この事業は、永平寺町とNTTコミュニケーションズ株式会社が協力して実施します。
濃霧中の運転補助
- 発案者:大分県
- 技術目標: 複数の基地局、端末を同時に、かつ移動しながら運用して、平均1Gbps以上の超高速通信を維持。
大分は地形的な要因から、高速道路に霧が発生してよく通行止めになります。
大分自動車道路は2位以下を大きく引き離し、日本で1番封鎖される高速道路です。
封鎖によって失われた高速道路の利用料金収入は、年間約1.8億円になると県は試算しています。
この提案のユニークなところは、車に外付けのARデバイスを載せて運転感覚を晴天時に近づけるという現行環境ベースのアプローチにあります。
運転障害の多くは、自動運転車が普及すれば解決する問題です。
しかし大分県は「いつか解決する」と思って足を止めず、「今ある車をどうするか」と考えた職員の能力の高さが伺えます。
仕組みの概要は
- 沿道のセンサーと赤外線対応の車載カメラで走行車両の情報を把握
- ダッシュボード付近に設置した外付けプロジェクタから、フロントガラスに前方車両の映像を投影する
というもので、センサーと機器の超低遅延/同時多数接続が5Gの活用ポイントです。
この事業は、大分県とNTTコミュニケーションズ株式会社が協力して実施します。
ゴルフ場でのラウンド補助
- 発案者:株式会社ミライト/株式会社長野京急カントリークラブ
- 技術目標: 複数の基地局、端末を同時に、かつ移動しながら運用して、平均1Gbps以上の超高速通信を維持。
ゴルフには広大な面積が必要で、整備・運用にかかるコストが大きいです。
つまり、準備にお金がかかるため客を大勢集めないとやっていけないということです。
株式会社ミライトは、5G通信を活用して維持費を抑え、同時に体験の質を向上させて客を増やす取り組みを提案しました。
この提案は、以下のような小さなアイディアの積み重ねでできています。
- 顔認証システムを利用した自動チェックイン/チェックアウト
- プレイの様子を仲間内にライブ中継
- カメラの映像からボールの落下位置を予測し、ドローンで追跡
- 残距離の表示とコース攻略のナビゲーション
- 傾斜や芝目の解析に基づくパッティング支援
- プレイヤーのスイングチェック
- プレイヤーの健康状態の管理
- カートの自動運転
- 芝刈り整備車両の自動運転
こうして挙げてみると、ゴルフが5G技術と相性のいいスポーツだということがわかります。
5Gを使ったサービスは多くのスポーツで提案されていますが、いずれも観客向けで、プレイヤーをサポートするものは珍しい試みと言えます。
「プレイ中にデータを吟味する時間がある」「対戦相手ではなくコースや環境を攻略するスポーツである」などのゴルフ独特の特徴が5Gの活躍の余地を大きくしています。
また、ゴルフ場は私有地でカートも低速です。
そのため、自動運転車の導入ハードルも低いと考えられます。
ゴルフ場は、5G技術の最良の実験場になりうるかもしれません。
この事業は、株式会社ミライトとNTTコミュニケーションズ株式会社が協力して実施します。