国内7社が推進するオール光ネットワーク(APN)の設計指針が、ITU-T勧告「Y.3335」として国際標準に採択されました。ただしスマホがすぐ速くなる話ではありません。
目次
結論:Y.3335採択の要点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 勧告番号 | ITU-T勧告 Y.3335 |
| 採択日 | 2026年8月13日 |
| 7社の発表 | 2026年8月21日 |
| 主導企業 | NTT・KDDI・1FINITY・NEC・楽天モバイル・沖電気工業・住友電気工業 |
| 対象 | 事業者をまたぐ低遅延・低消費電力な通信経路の構成・技術要件 |
| 目的 | 特定団体・方式に依存しない、世界規模の相互接続 |
| 関連施策 | 総務省「Beyond 5G(6G)推進戦略」、NICT「Beyond 5G(6G)基金事業」 |
APNとは
- 電気信号への変換を減らし、端から端まで光のまま伝送する構想
- NTTの次世代通信基盤構想「IOWN」の中核技術
- 今回は、複数事業者をまたいで接続するための「設計指針」を標準化
ポイント:今の網はルーター等を通るたびに光⇔電気を変換し、遅延と電力を生みます。APNは「途中で止まる回数を減らす」発想です。
目標性能(IOWN構想・2030年ごろ)
| 指標 | 目標(従来比) | 現状 |
|---|---|---|
| エンドツーエンド遅延 | 200分の1 | 「APN IOWN1.0」で先行達成とされる |
| 電力効率 | 100倍 | 2030年ごろの目標 |
| 伝送容量 | 125倍 | 2030年ごろの目標 |
NTT東日本・西日本は2023年3月16日に法人向け「APN IOWN1.0」を開始済み。個人向けサービスではありません。
なぜ国際標準が必要か
- 各社が独自方式だと、事業者をまたぐたびに変換が必要になり効果が消える
- 総務省は複数事業者をシームレスにつなぐAPNの国内・海外展開を見据える(2026年3月資料)
- 光通信関連の市場は2030年に約53兆円との予測
6G(Beyond 5G)との関係
| 領域 | 規格・団体 | 役割 |
|---|---|---|
| 有線(光) | APN/ITU-T | 大容量・低遅延・低消費電力の土台 |
| 無線 | 6G(Release 21)/3GPP | スマホが直接つながる規格 |
- NTT・KDDI・富士通・NEC・楽天モバイルは2024年10月、複数事業者のAPN協調の研究でBeyond 5G(6G)基金事業に採択
- AIによるデータ急増や、ロボット・自動運転などの「Physical AI」に備える基盤
- 無線側でも研究が進む:NTTは2026年9月14日、サブテラヘルツ帯で毎秒2テラビット・100mの無線伝送に成功したと発表(世界最高速。AIデータセンターや基地局ネットワーク向け)
無線側の6G標準化スケジュール
3GPPは2026年6月のシンガポール会合で、初の6G規格「Release 21」の日程を承認しました。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2027年3月 | ステージ1凍結(サービス要件) |
| 2028年6月 | ステージ2凍結(アーキテクチャ) |
| 2028年12月〜2029年3月 | ステージ3凍結・仕様確定 |
| 2030年以降 | 初期の商用6G開始の見込み |
有線(APN)と無線(Release 21)が2029〜2030年に向けて並走。Y.3335は有線側の一歩です。
標準化のあと:2028年10月に次の勧告を目指す
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年8月13日 | Y.3335(設計指針)採択 |
| 2028年10月(目標) | 7社が詳細な機能アーキテクチャの勧告策定を目指す |
| 2026年度中 | NTTが光電融合デバイス「PEC-2」を使う次世代スイッチの商用提供を開始予定(2026年2月5日発表、AIデータセンター向け) |
| 〜2026年度/〜2027年度 | APNの全国基盤:札幌〜東名阪〜福岡は構築済み、主要都市間は2026年度まで、地方都市間は2027年度までに整備する計画 |
出典:NTT ニュースリリース(2026年8月21日)/NTT「APN基盤の早期面的展開について」総務省 情報通信成長戦略官民協議会 提出資料(2026年2月20日)。
使えるサービスと、2026年の実証
| サービス・事例 | 内容 |
|---|---|
| APN IOWN1.0(2023年3月〜) | 法人向けの専用線型サービス |
| All-Photonics Connect powered by IOWN(2024年12月〜) | NTT東西が順次提供。最大800Gbpsの帯域保証型で、提供エリア内の2拠点間を接続 |
| 遠隔の外観検査(2026年2月19日) | 静岡・掛川の工場と関東のデータセンターを約300kmつなぎ、画像認識AIによる検査を現地と同水準の時間で実施 |
| 工場・プラントでの実証(2026年4月・6月) | APNと60GHz帯の無線LANを組み合わせ、コンビナートの設備点検を高度化 |
| 手術支援ロボットの遠隔操作(2026年9月16日発表) | 九州大学・日本外科学会・F.MED・NTTドコモビジネス・NTTイノベーティブデバイス・セランの6者が、九州大学病院と同別府病院の約110kmをAPNで接続。往復0.005秒以下の応答でマイクロサージェリー用ロボットを動かす世界初の実証。2026年度に映像伝送を検証し、2027年度に遠隔操作へ |
課題はNTT自身が認めている(総務省の会議資料・2026年2月20日)
- 需要は「大規模データセンター間を接続する需要のみに留まる」
- 「地方部での需要が限定的」で、エリア内の面的展開が進まない
- 戦略:交通・医療・行政など公共分野の需要を呼び水に地方へ広げる
↑この戦略の実例が、上の表に挙げた九州大学の遠隔手術実証です。総務省「令和8年度 地域社会DX推進パッケージ事業(先進的通信システム活用タイプ)」の採択事業で、国の事業費で医療の需要をつくる形になっています。
【2026年10月】国が実証基盤「APNイノベーションハブ」を開設
標準が決まった次は、試せる場所です。総務省は2026年10月1日、APNの実証基盤環境を10月5日に開設すると発表しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | APNイノベーションハブ(オール光ネットワーク実証基盤環境) |
| 開設 | 2026年10月5日(利用予約は10月1日から) |
| 中核拠点 | 大手町・新宿(東京)、横須賀(神奈川)の3拠点。複数拠点とデータセンターをAPNで接続 |
| 構築・運営 | 総務省の委託を受けた三菱総合研究所。運営チームが利用者を支援 |
| 試せること | APNの大容量・低遅延の接続性と、遠隔のGPU計算資源(AIの学習・推論用) |
| 対象 | APNの利用を検討する企業・大学・研究機関 |
何が変わるか:これまでAPNを試すには自前で光の区間を用意する必要がありました。拠点とGPUが用意されたことで、「遠くのGPUを手元のように使えるか」を自社の用途で確かめられるようになります。NTT自身が課題に挙げた「需要が大規模データセンター間に限られる」状態を広げるための手当てです。
出典:総務省報道資料「オール光ネットワーク実証基盤環境(APNイノベーションハブ)の開設」(2026年10月1日)。拠点・運営主体・提供内容はINTERNET Watchの報道による。利用料の有無は公表資料では確認できませんでした。
私たちの通信はいつ変わる?
| 時期 | 個人への影響 |
|---|---|
| 現在〜数年 | ほぼ変化なし(法人向け専用線が中心) |
| 間接的 | 動画配信・クラウドの安定性や提供コストに影響しうる |
| 2030年ごろ〜 | 6G商用化と重なり、遠隔操作・自動運転・XRなど遅延が効く用途から |
今のスマホが遅い原因はAPNや6Gではありません。Sub-6エリア、プランの速度制限、5G SA対応といった現行5G側を確認しましょう。
よくある質問
Q. スマホの速度はすぐ速くなる?
なりません。標準化されたのは事業者間接続の設計指針で、本格展開は2030年ごろの見込みです。
Q. APNと6Gは同じ?
違います。APNは有線(光)側でITU-T、6Gは無線側で3GPPが策定します。
Q. IOWNとAPNの違いは?
IOWNはNTTの構想全体、APNはその中核技術です。ITU-TはITUで国際標準(勧告)を策定する部門です。
Q. もう使えるAPNサービスはある?
法人向けの「APN IOWN1.0」と、2024年12月から順次提供の「All-Photonics Connect powered by IOWN」(最大800Gbps)があります。いずれも個人向けの回線やプランではありません。
まとめ
- APN設計指針がITU-T Y.3335として2026年8月13日に採択
- 目標は遅延200分の1・電力効率100倍・容量125倍
- 無線側6G(Release 21)と並び、2029〜2030年へ
- 次は2028年10月目標の機能アーキテクチャ勧告。NTTは2026年度中にPEC-2を使う次世代スイッチの商用提供を予定
- 医療など公共分野の実証が地方展開の呼び水(九州大学の遠隔手術実証は2026〜2027年度)
- 個人の体感が変わるのは中長期。今の不満は現行5G側で確認
出典:NTT ニュースリリース「AI時代の低遅延・低消費電力なネットワークの設計指針がITU-Tで国際標準化」2026年8月21日(https://group.ntt/jp/newsrelease/2026/08/21/260821a.html)/総務省「オール光ネットワーク(APN)の普及・拡大に向けた取組」2026年3月25日(https://www.soumu.go.jp/main_content/001072093.pdf)/富士通ニュースリリース 2024年10月22日(https://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/10/22-1.html)/NTT東日本「APN IOWN1.0の提供開始について」2023年3月2日(https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20230302_01.html)/NTT「APN基盤の早期面的展開について」情報通信成長戦略官民協議会 2026年2月20日(https://www.soumu.go.jp/main_content/001057787.pdf)/NTT東日本・西日本「All-Photonics Connect powered by IOWN」2024年11月18日/NTTドコモビジネス「IOWN APNと画像認識AIにより約300km離れた工場での外観検査に成功」2026年2月19日/3GPP Release 21 の日程は2026年6月のシンガポール会合で承認
※本記事は2026年9月18日時点の情報に更新したものです(IOWNの目標値、法人向けサービスの提供状況、3GPP Release 21の日程を追記)。2026年9月13日に図表中心の構成へ再編集し、9月18日に次の勧告(2028年10月目標)、PEC-2の商用化予定、APN基盤の全国整備計画、2026年の実証事例、NTT自身が挙げる需要面の課題を追記しました。9月25日にNTTのサブテラヘルツ帯 2Tbps無線伝送(2026年9月14日 NTTニュースリリース)を追記しました。2026年10月4日に、九州大学らがAPNで約110km離れた2病院を結ぶ手術支援ロボットの遠隔操作実証(2026年9月16日発表・総務省 地域社会DX推進パッケージ事業)を追記しました。2026年10月16日に、総務省が10月5日に開設した実証基盤「APNイノベーションハブ」(10月1日発表・大手町/新宿/横須賀の3拠点・三菱総合研究所が構築)を追記しました。