アメリカ・オセアニア・イギリス・フランスと、中国のファーウェイを自国の5G通信網から排除する動きが広がっています。
そのような中、インドもファーウェイ排除へと舵を切りつつあります。
国際的に広がるファーウェイ排除の動きですが、インドのファーウェイ排除の中身がどのようなものなのか、そしてなぜインドはファーウェイを排除する方向へと方針転換したのか解説します。
目次
当初インドは5G通信網からファーウェイを排除せず
2020年前半まで、インドは5G通信網からファーウェイを排除していませんでした。
中国とインドの関係性が良好だったからではなく、自国で5G技術を賄うことができないインドは、外国の力を借りる必要があり、そして世界の中でも最も安価で通信網を構築することができるファーウェイはインドにとって魅力的だったからです。
2020年前半までのインドとファーウェイの関係性についてまずはおさらいしておきましょう。
インドは全ての5G開発企業を許可
インドは2019年12月31日に「ファーウェイを含む、全ての次世代通信規格「5G」開発企業に試験運用への参加を認める」と発表しています。
ファーウェイに対してはアメリカから排除するよう求められていましたが、インド政府はアメリカの求めには応じず、2020年前半まではファーウェイを容認していました。
しかし、ここで許可をしたのは5Gの試験運用であって、商業運用ではありません。
安いファーウェイにインドは魅力を感じている
インドがアメリカの求めに応じずファーウェイを容認した背景には経済的な事情があるようです。
インドは自国で5G機器を生産する技術を持っていません。
海外から5G機器を購入する場合、ヨーロッパのノキアやエリクソンなどのメーカーから購入するとどうしても割高になってしまいます。
一方、ファーウェイの5G機器はノキアやエリクソンに比べて割安となっています。
インド国内の通信会社各社は経営が逼迫しており、熾烈な価格競争に晒されていると言われています。
このような事情の中、高いヨーロッパ製の機器に手を出してしまえば価格競争に生き残ることが難しくなってしまうインド通信会社の「割安で調達したい」という思惑から、インドはファーウェイを容認する形でした。
ファーウェイはインドにコロナ対策技術を提供
2020年3月にファーウェイはインドにコロナ対策技術を提供しています。
ファーウェイの5G技術をインドにアピールする機会であると同時に、中国の新型コロナウイルスに対する加害者の立場から救済者の立場に転じたいという思惑があるように感じます。
いずれにせよ、3月時点ではインドとファーウェイの関係はそれなりに良好であったことが分かります。
5Gを活用したサーマルイメージング技術を提供
ファーウェイがインドに提供したサーマルイメージング技術とは、移動する物体の温度を遠隔からリアルタイムで正確にモニタリングできるものです。
遠くからでも発熱する人をモニタリングすることができるので、感染拡大に大きな抑止力を発揮し、実際に中国でも感染拡大防止のために使われた技術であるとされています。
インドとの関係構築の戦略か
ファーウェイとすれば、このような技術をインドへ提供することで、中国とファーウェイの5G技術力をアピールすることができると同時に、他国と同様に、新型コロナウイルスによって悪化した、インド国民の対中感情を融和的な方向性へ転換させようという思惑があったものと推測されます。
中印は歴史的に対立してきましたが、関係構築をする狙いもあったのでしょう。
中印対立|インドもファーウェイ排除へ転じる方向へ
2020年前半までは比較的良好であったインドとファーウェイの関係ですが、2020年7月からはインドもファーウェイ排除へと方向転換しています。
これは、国際的に排除の動きが強まったこと以上に、中国とインドの2国間関係が悪化したことが原因でしょう。
インドのファーウェイ排除の具体的な動きについて詳しく解説していきます。
中国とインド両軍による国境の係争地域での衝突
ヒマラヤ山脈などで接する中国とインドの間では約3千キロメートルの国境が画定していないという事情があります。
両国は以前からこの国境で係争を繰り返してきましたが、2020年6月にも両国間の衝突が起こり、インド側の20人が死亡。
実は両国の衝突で死者が出たのは45年ぶりです。
この報復措置として、インド政府は通信や自動車分野で中国企業を締め出す制裁措置を検討しており、その一環としてファーウェイの排除も含まれています。
インド政府から通信会社へファーウェイ排除の通達
インド政府はインド国営通信会社に対して「4Gのネットワーク更新や5Gの試験で、中国通信機器大手のファーウェイZTEなどの製品を使用しないよう」という通達を出したと報道されています。
インド政府はファーウェイの排除だけでなく、中国による大型の投資案件の中止や、中国企業による電動バスや機械関連の事業も凍結する見込みです。
インド政府はさらに大きな軍事衝突の可能性も示唆しており、両国間の関係は非常に悪化しています。
しかし、インドは新型コロナウイルスの影響によって深刻な不況に陥っており、インド最大の輸入相手国である中国経済と中国の物資を完全に断ち切るのは困難だと言われています。
今後は、経済的な事情を抱えるインドが、中国に対してどこまで本気の報復措置を取ることができるかどうかに焦点が集まるでしょう。
いずれにせよ、一時はインド国内での参加が認められていたファーウェイはインド政府から排除される方向性となったことは間違いないでしょう。
ただし、ファーウェイはインドに20年前に進出し、現地に7,500人もの雇用を抱えています。
通信インフラから排除するということはできたとしても、インド国内から完全にファーウェイを排除することは簡単ではないでしょう。
中国アプリ59種禁止へ
さらにインド政府は中国に対する報復措置として、中国アプリ59種のインド国内での利用を禁止しました。
主なアプリとしては、Tik Tok、WeChat(中国版Facebook)、Weibo(中国版ツイッター)、Kwai(TikTokの競合)など、日本でのおなじみのそうそうたるアプリが全て使用禁止となってしまいました。
特に日本の若者でも非常にユーザーが多いTikTokは全世界のユーザーの3分の1がインド国民です。
TikTokもインドには相当な投資をしており、これまでに10億ドル(約1075億円)もの投資を行なってきましたが、この投資はパーになった格好で、運営会社であるByteDanceはこれだけで60億ドル(約6450億円)もの損失になったと言われています。
インド国民も政府のこの決定を概ね支持していると言われており、前述したように「通信インフラからも完全にファーウェイを排除しよう」というのが多数派の国民世論となっているようです。
まとめ
国際的なファーウェイ排除の流れとは直接的には無関係に、インド政府はファーウェイ排除へ舵を切り始めています。
中国とインドの2国間の国境地帯での対立が原因です。
今、中国は日本も含めた隣接する国々の多くと国境問題でトラブルを起こしています。
ファーウェイの排除が中国のこのような態度に対する報復措置であるのであれば、「ファーウェイの技術が自国の情報を盗む」というアメリカの主張とは無関係に、「安全保障で揉めている国の国策企業に自国の通信インフラは任すことはできない」と各国が考えるのは当然です。
中国の世界戦略が変わらない以上は、ファーウェイ排除は各国でさらに進み、国際的な対中国・対ファーウェイの枠組みができるかもしれません。
なお、日本においてはソフトバンクなどがファーウェイ製のスマホを販売しています。
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