【2026年8月 追記】
この記事は2020年公開当時の情勢を伝えたものです。2026年現在も米中対立とファーウェイの5G機器排除は続いています。ファーウェイは米制裁下で独自チップ「Kirin」を復活させ、自社OS「HarmonyOS」により中国国内では復権しましたが、日本のスマホ市場からは事実上撤退した状態です。日本の5G網の「脱ファーウェイ」はそのまま定着し、5G人口カバー率は98.6%(2025年度末)に達しています。
【重要な訂正・補足】本記事のタイトルにある「原因はコロナ?」は、2020年当時に一部で語られた憶測を紹介したものであり、事実として確認された因果関係ではありません。イギリス政府が公式に示した排除の根拠は、国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)による評価で、アメリカの対中制裁強化に伴うファーウェイの半導体調達リスクでした。新型コロナウイルスは政府の公式な決定要因としては一度も挙げられていません。本文中でも、憶測と公式見解を区別して整理し直しています。また、2027年末までの完全排除期限は2026年8月時点でも維持されており、詳細は本文末尾に追記しました。
2020年5月25日、イギリス政府がファーウェイ製品を排除する方針を発表しました。2020年1月に一部容認を打ち出したばかりで、そのわずか4カ月後の急展開です。10日前の5月15日にはアメリカがファーウェイへの制裁を強化しており、当時は新型コロナウイルスを巡る対中不信感が一因ではないかとする憶測もメディアで語られました。しかし後述の通り、イギリス政府が公式に示した根拠はコロナとは無関係で、アメリカの対中制裁強化に伴う半導体調達リスクについてのNCSC(国家サイバーセキュリティセンター)評価です。本記事では、当時囁かれた憶測と政府が公式に示した根拠を区別しながら解説します。
目次
イギリスが中国製品の限定採用方針を転換
これまでは35%以下までは認められていた
アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド・カナダ・イギリスは諜報情報を共有する「ファイブ・アイズ」同盟を組み、2019年までは足並みを揃えてファーウェイ製部品を一定程度排除していました。しかし2020年1月、イギリスだけがこの方針を転換し、5G通信網などに占有率35%以下でファーウェイ製品の使用を認めることとしました。ただし5Gネットワークの最重要な基幹部分からは引き続き排除され、機密情報とは無関係な部分のみが対象でした。
【5G戦争】ファーウェイはなぜ問題なのか?日本の対応と今後の動向
2020年5月、排除へ180度転換
イギリスは一部容認からわずか4カ月後の2020年5月、方針を急遽転換します。報道によると「イギリス政府は計画を立案するよう、関係部局に指示した」とされ、容認から排除へと180度方向転換したことになります。
イギリスがファーウェイ排除に転じた理由
政府が公式に示した最大の根拠は、アメリカの対中制裁強化によってファーウェイの半導体調達に重大なリスクが生じたという、NCSCによる安全保障評価です。一方で当時のメディアでは、新型コロナウイルスを巡る対中不信感が一因ではないかという憶測も広く語られていました。この2つは性質が異なるため、「公式に確認されている根拠」と「当時語られていた憶測・背景要因」を分けて整理します。
| 要因 | 位置づけ |
|---|---|
| アメリカのファーウェイへの制裁強化(NCSCの安全保障評価) | 【公式】政府が公表した根拠 |
| 中国に対するコロナによる不信感 | 【憶測】未確認の見方 |
| イギリス国内・保守党の反対 | 【背景要因】従来からの懸念 |
| 米中のコロナを巡る対立 | 【憶測】未確認の見方 |
| イギリスのEU離脱 | 【背景要因】対米関係への配慮 |
アメリカの制裁強化とNCSCの公式見解:半導体供給網リスクが決定打
2020年5月15日、アメリカ商務省は輸出管理規則(FDPR)を改正し、外国工場であっても米国製の技術・製造装置を使って製造した半導体をファーウェイに供給する場合は米政府の許可が必要になるとしました。台湾TSMCなどファーウェイ向け半導体の大半を受託製造していた企業がこの規制対象となり、ファーウェイは主力チップの調達ルートを失う見通しとなったのです。
これを受けてNCSCは「ファーウェイは今後、製品の設計・製造に米国の技術を用いることがほぼ不可能になる」との分析を示し、代替調達先が乏しいことから将来供給されるファーウェイ製5G機器の安全性を保証できなくなったと結論づけました。このアメリカの制裁による半導体供給網の不確実性こそが、イギリス政府が2020年7月14日に公式発表した排除決定の根拠であり、新型コロナウイルスは政府の公式資料には登場しません。
当時語られた憶測・背景要因
公式根拠とは別に、当時は複数の憶測・背景要因も語られていました。中国のコロナ対応への不信感を抱いたジョンソン首相がファーウェイへの不信にもつながったのではないか、という見方はその一つですが、あくまで報道・論評上の推測であり政府の公式根拠ではありません。ほかにも、以前からイギリス国内の保守党を中心に「ファーウェイにインフラを握られれば国家機密が流出しかねない」との安全保障論があったこと、米英間で自由貿易協定(FTA)交渉が進む中でアメリカへの配慮が働いたとする見方、EU離脱後の新たな経済関係構築という事情などが背景要因として挙げられています。
イギリスはファーウェイ排除で問題ないのか?
ファーウェイ製品を使って5G通信網を構築してきたイギリスにとって、排除には技術面・コスト面双方で影響が避けられません。1月時点の「35%以下」規制だけでも5億ポンドのコスト増が見込まれており、ゼロにする以上さらなるコスト増大は避けられないとされています。また、2033年までに全戸へ光ファイバーを敷設する計画にも遅れが出ると見られています。それでもイギリスはセキュリティを優先してファーウェイ排除を決めたということです。
公式見解と憶測の整理
ここまで見てきたように、イギリスのファーウェイ排除を巡っては複数の理由が語られていますが、性質が異なるため整理しておく必要があります。
| 分類 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| NCSCの公式評価 | 米商務省が2020年5月15日に改正した輸出管理規則(FDPR)により、ファーウェイが米国製技術を用いた半導体(TSMC製など)を調達できなくなり、将来の機器の安全性を保証できなくなった | 政府が公表した公式根拠 |
| 国内の安全保障論(保守党など) | 重要インフラを信頼できない海外ベンダーに依存すべきではないという以前からの主張 | 従来からの既存の懸念 |
| 新型コロナウイルスを巡る対中不信感 | 中国政府の情報開示姿勢への不満が対中強硬論を後押ししたという見方 | メディア等で語られた憶測(未確認) |
| EU離脱後の対米関係・米中対立 | 米英FTA交渉や米中対立構造の中で対米配慮が働いたとの見方 | 背景要因とされる推測 |
このように、公式に確認できる決定的な理由はアメリカの制裁強化とNCSCの安全保障評価であり、新型コロナウイルスはあくまで当時語られた憶測の域を出ません。両者を混同しないことが重要です。以下に、2020年1月の一部容認から2020年7月の排除決定、そして2027年末の完全排除期限に至る経緯を整理しました。
2026年8月時点の状況:排除は今どこまで進んだか
2020年7月の決定から6年が経過した2026年8月時点でも、イギリスの5G網からファーウェイ製機器を完全に排除する期限(2027年末)は維持されています。排除作業は当初の想定より難航しており、業界専門メディアのLight Readingは、代替ベンダー(エリクソン、ノキアなど)への切り替え作業を「costly and tortuous(費用がかさみ、困難に満ちた)」プロセスだと伝えています。英BT社は、ファーウェイ排除への対応によって約6億1200万ドルのコストが生じたと報じられています(RCR Wireless、2023年)。
なお、排除に向けた中間期限は当初の計画から一度緩和されています。イギリス政府は2022年10月、通信事業者に対して、コア(基幹)網からのファーウェイ排除期限(当初2023年1月末)と、非コア網でのファーウェイ製品比率を35%以下に抑える期限(当初2023年7月末)について、パンデミックに伴う世界的なサプライチェーンの混乱などを理由にそれぞれ延期し、35%上限の期限は2023年10月31日へと改められました。ただし、2027年末という最終的な完全排除期限そのものは、この緩和後も一貫して変更されていません(Computing、CNBCなどの報道より)。
受け皿として進むOpen RAN化、日本のNECも参画
ファーウェイ排除の技術的な受け皿として英国で進んでいるのが、特定ベンダーに依存しない「Open RAN(オープンRAN)」化です。ボーダフォンは英国内の基地局のうちおよそ2,500拠点、全体の1割強にあたる規模をOpen RAN方式へ切り替える計画を進めており、Capgemini、Dell、Intel、Samsung、Wind Riverに加え、日本のNECをパートナーとして採用しています。NECは、O-RAN Allianceが定める7-2x分割方式に対応した大規模MIMO無線機(radio unit)の供給を担っており、業界専門メディア(Light Reading、TelecomTVなど)は、実際に稼働中のサイトでNEC製機器への入れ替えとサムスン製ソフトウェアとの相互接続性を検証する実証が行われたと伝えています。BTやThreeがエリクソン・ノキア中心の構成に集約しているのに対し、ボーダフォンはOpen RANという新しい枠組みの中で日本メーカーの技術を取り込んでいる点が特徴です。
そもそもどれだけの規模の入れ替えなのか
「2027年末までに完全排除」という期限だけを聞くと単純な作業のように思えますが、実際に入れ替えなければならない設備の量は膨大です。業界専門メディアLight Readingが2024年7月にまとめた各社の状況を整理すると、イギリスの通信事業者がいかにファーウェイに依存していたかが分かります。
| 事業者 | ファーウェイ製設備の規模 | 入れ替えの状況・コスト |
|---|---|---|
| BT | 全国約1万9,000拠点のうちおよそ3分の2 | 撤去対応にかかるコストは約5億ポンド規模とされる |
| ボーダフォン | 全国1万8,000拠点のうちおよそ3分の1 | 約3,500拠点でエリクソン製への切り替えが完了、約2,500拠点でサムスン製への切り替えが進行中 |
| Three | 5G向け機器の供給元がファーウェイ1社のみだった | 年間の設備投資4億5,000万ポンドの大部分が入れ替え関連に充てられた |
とくにThreeは5G向けの機器をファーウェイ1社に頼っていたため、排除決定の影響を最も強く受けた事業者です。数千拠点規模のアンテナや無線機を、サービスを止めずに別メーカー製へ入れ替えていく作業が7年以上かけて続いているというのが、「2027年末までに排除」という一文の実際の中身ということになります。前述のとおりボーダフォンがOpen RAN化にNECやサムスンを起用しているのも、この大規模な入れ替えの機会をベンダー構成の見直しに使っているという側面があります。
※拠点数やコストは報道・調査会社の推計にもとづく数値であり、各社が公式に発表した確定値ではありません。BTの負担額については別途、約6億1,200万ドルとする報道もあり、集計の範囲や時点によって幅があります(出典:Light Reading, 2024年7月17日ほか)。
つまり、イギリスの「脱ファーウェイ」は新型コロナウイルスとは無関係に、アメリカの制裁による半導体供給網リスクという公式根拠に基づいて着実に進行しており、Open RANという新しい技術方式や日本企業の関与も交えながら、2027年末の完全排除に向けて現在も継続中というのが2026年8月時点の実情です。日本を含めた他国のファーウェイに対する今後の関わりに注目です。
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※本記事は2020年に公開した内容をもとに、英政府・NCSCの公式見解やOpen RANへの移行状況など2026年8月時点の最新情報を追記して更新したものです。