5G基礎知識

【5G戦争】ファーウェイはなぜ問題なのか?日本の対応と今後の動向

2019年はニュースで「ファーウェイ」という言葉を耳にする機会がよくありました。

多くの人が「ファーウェイは悪いことをしているのか。。」などとざっくりと捉えているのではないでしょうか?

しかし、ファーウェイの問題はそれほど単純ではなく、アメリカと中国の主張は大きく食い違っています。

そして、政治的にアメリカの側に立つ日本はアメリカの主張に同調しています。

しかし、これは単に貿易戦争ではなく、安全保障にも大きく関わる問題で、多くのことが事実ではなく「もしも」で動いています。

ファーウェイを巡るアメリカと中国の主張、そして日本政府の具体的対応について解説していきます。

ファーウェイの問題をどう捉えるかは、私たちが携帯キャリアを選択する上でも重要になります。

概要だけでも理解しておきましょう。

ファーウェイを巡る米中5G戦争とは?

ファーウェイを巡る米中5G戦争とは?

ファーウェイを巡るアメリカと中国の主張の食い違いやアメリカの制裁的な対応は「米中5G戦争」と呼ばれるほど熾烈になっています。

まずは、ファーウェイを巡る米中の対立の概要や、米中両国の主張について詳しく見ていきましょう。

ファーウェイがなぜ問題になるのか?

2018年末くらいから、ファーウェイの問題が取りざたされるようになりました。

まずは、ファーウェイの問題を米中それぞれの立場から事実だけを並べていきます。

アメリカの主張

アメリカの主張している内容と主な事件は以下の通りです。

  • ファーウェイ社が製品を利用して不正な情報収集、スパイ活動を行なっているのではないかと米政府の主張
  • 「米国のイランへの制裁にファーウェイが違反した疑いがあるため」という理由でファーウェイの孟晩舟・副会長を逮捕
  • 米国中央情報局(CIA)が、中国の通信機器メーカー・ファーウェイが中国の国家安全保障当局から資金提供を受けていると主張
  • ファーウェイが中国政府、人民解放軍と深い繋がりがあることは事実

中国の主張

一方、中国政府は上記のアメリカの主張を一切認めていません

そして、中国政府は「ファーウェイを含む同国企業に対して一方的な経済制裁を発動する国には、中国政府は対抗する」と主張しています。

ファーウェイが中国政府と関係が深く資金提供も受けていることは事実のようですが、アメリカが主張するスパイ活動に当たる証拠は実際にはありません。

真偽は不明だが

このように事実だけを並べてみると、「アメリカは証拠がないのに危機感を持ってファーウェイを排除しようとしている」とも見えます。

この裏にあるのは、「今後の」安全保障に対する危機感ではないかと言われています。

ファーウェイは5Gインフラで以前は世界1位のシェアを誇っていた企業です。

そして本格的に5Gインフラが整った国は、情報通信だけでなく生活インフラまでのほとんどを5G通信網を介して行うことになると言われています。

この5G通信網の内部機器に他国がアクセスできた場合に、電気、水などの必須インフラから安全保障上の情報まで全てが無防備な状態になってしまいます。

仮にアメリカが主張するように、ファーウェイ製の通信機器から中国政府が情報収集ができてしまうとすると、ファーウェイ製の通信機器によって5G通信網を構築している国の情報やインフラは全て中国に握られてしまうことになります。

つまり、「もしも」中国に通信網を支配されてしまったらアメリカにとっては安全保障上の脅威になる、だから「今のうちに」中国政府の実質的な支配下にあるファーウェイを5Gインフラから排除したい。というのがアメリカやオーストラリアなどの意図だと考えられるのです。

「事実」よりも「もしも」を考慮した結果が現在のファーウェイ排除の流れに繋がっています

アメリカの呼びかけによって世界各国はファーウェイ排除の動きへ

アメリカの呼びかけによって世界各国はファーウェイ排除の動きへ

アメリカは世界各国に「5Gの通信網にファーウェイ社製の製品を使わないように」と呼びかけています。

実際にこれに呼応して、欧米ではファーウェイを排除する動きが加速していますし、日本では強制的に排除とまでは行かないまでも、税制優遇などによって排除の動きが出ています。

ファーウェイへの日本も含めた各国の対応について詳しく解説していきます。

各国の対応

ファーウェイに対する各国の対応は以下のように異なります。

アメリカ 国防権限法で製品や部品の政府調達を禁止
オーストラリア 政府がファーウェイの5G通信網への参加を認めない
ニュージーランド 政府がファーウェイの5G通信網への参加を認めない
イギリス 信大手が5Gネットワークからファーウェイを排除
カナダ 国家情報局がリスクに言及
フランス ファーウェイを排除しないと閣僚が言及
ドイツ ファーウェイが5G通信網の契約を確保

このようにアメリカとオーストラリア、ニュージーランドでは政府がファーウェイの排除を行なっています。

イギリスは一部で認める方針で、ドイツはファーウェイが通信網を構築しており、国によってファーウェイへの対応は大きく異なります。

アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、カナダは諜報機関の情報を共有する「ファイブ・アイズ」という同盟を組んでいるため、一定程度アメリカと足並みを揃えています。

一方EUの中心国であるフランスとドイツはファーウェイ排除は行なっていません

日本政府のファーウェイへの対応

日本の方針もアメリカと足並みを揃えたものになる見込みで、ファーウェイに対する主な施策は以下の通りです。

  • 政府調達を禁止する方針
  • 民間企業にファーウェイ製の商品を調達しないよう呼びかけ
  • 5G通信網を整備し、ファーウェイ製のものを使用しなければ3年間税制優遇

日本政府は政府も民間もファーウェイを排除する動きです。

やはり安全保障上のリスクを考慮すれば、「if」を仮定してアメリカと歩調を合わせておいた方がよい、というのが日本政府の考えのようです。

対中国との最前線に位置する日本の地政学上のリスクを考えれて現実的な対応と言えるのかもしれません。

ファーウェイを排除した場合のデメリットは?

ファーウェイを排除した場合のデメリットは?

ファーウェイは5G通信機器の世界トップメーカーです。

本当にファーウェイを排除してしまって、技術的には問題にならないのでしょうか?

ファーウェイの5Gにおけるシェアや技術力、代替できるメーカーはあるのかなど簡単に解説していきます。

ファーウェイの技術やシェア

ファーウェイは2017年は携帯インフラで世界1位でしたが、2018年はアメリカの排除の効果もあり2位に転落しています。

しかし、ファーウェイの基地局設置の技術力は世界でも評価されており、「ファーウェイ以外にはマラリアが発生する湿地や南米コロンビアの山腹に基地局を設置する企業はない」と言われています。

そのため、世界の中ではファーウェイの技術力に頼らなければ5G通信網を整備できない国は存在するでしょう。

ファーウェイ以外のメーカーで対応できる?

5G通信網シェア世界1位はファーウェイとスウェーデンのエリクソンが争っています。

アメリカはスウェーデンのエリクソンと組んで5Gを進める方針ですし、日本はじめファーウェイ排除に動いている国も同様でしょう。

ファーウェイ社製の製品は低価格というメリットはありますが、どうしてもファーウェイでなければならないという訳でもないのです。

しかし、一つ大きな問題があります。

製品にはメーカーごとの規格があるため、すでにファーウェイの規格で整備を進めてきた国や企業にとってはファーウェイの完全排除ということは難しいのです。

すでに5G通信網で世界中に根を張っているファーウェイを完全に排除するということは現実的には難しいという側面があります。

日本でのファーウェイの扱いは?

日本でのファーウェイの扱いは?

アメリカ政府の呼びかけに呼応する形で、日本政府もファーウェイ製の通信機器の排除を行なっています。

しかし、政府の方針はあくまでも税制優遇等ですので、民間企業であるキャリアに対する強制力はありません。

具体的に日本のキャリアとファーウェイの関係はどのようになっているのか見ていきましょう。

ドコモとauはファーウェイは導入しない

ドコモとauは5G基地局にファーウェイ製の製品の導入はしません。

政府の方針に呼応した形です。

ソフトバンクはすでに導入済み

ソフトバンクは現在すでにファーウェイ製の製品で基地局の整備を行なってしまっています。

ただし、ドコモ、auと同様に「政府の方針に則って調達をする」という旨の声明を出してはいますが、導入済みの基地局の規格の問題もあり、現実的にはファーウェイ排除を行うのかどうかは不透明です。

スマホは日本で発売されているが

ファーウェイのスマホは今も普通に日本で発売されています。

しかし、アメリカのファーウェイ排除の一環として、ファーウェイ製の端末ではGoogleのアプリが使用できないという非常に大きな問題があります。

GoogleMapは使用することができませんし、アプリのダウンロードのために便利なGooglePlayも利用できません。

今後も日本で5G対応スマホなどが投入される予定ですが、Googleアプリを利用している人いとっては、やはり不便であることは変わりないでしょう。

また、真偽は定かではありませんが、情報漏洩を心配して忌避している人がいるのも事実です。

まとめ

ファーウェイの問題は事実よりも「if」に基づく問題の方が大きいように思えます。

確かに、「安全保障上の脅威である中国に安全保障や生活インフラネットワークを全て押さえられてしまったら」という懸念は誰もが持つものです。

しかし、アメリカもスノーデンファイルでも明確になったように、他国のネットワークに侵入していたという事実がありますし、今もGoogleは世界中の情報を集めています。

結局、日本にとっては「どちらの国に情報を知られた方がよりマシなのか」という問題に帰結するのではないでしょうか?

私たち日本がアメリカに安全保障を頼っている限り、日本政府の選択は現実的なものと言えます。

ただし、ファーウェイがアメリカから部品調達などのために購入している金額は莫大なものと言われており、両国が完全に関係を絶つことはもはや不可能と言われています。

双方が主張を繰り返し、どのような結論になるのか、アメリカと中国という2つの大国にちょうど挟まれた我が国は、米中貿易戦争、米中5G戦争を注視していかなければならないでしょう。