特定のエリアや施設だけに5G通信網を敷設するローカル5Gがいよいよ実用化に向けて動き出しています。
大手電気機器メーカー富士通と宮崎県のケーブルテレビ「ケーブルメディアワイワイ」はローカル5G検証システムを構築。
以前から伝えていたように、ローカル5Gはケーブルテレビ会社を介して普及が始まることが現実味を帯びてきました。
富士通と宮崎県のケーブルテレビがどのようにローカル5G通信網を構築し、この動きが日本全体にどのように波及していくのか解説していきます。
目次
ローカル5G検証システムの構築を開始
2020年4月6日、富士通ネットワークソリューションズ株式会社(以下、FNETS)、富士通株式会社、株式会社ケーブルメディアワイワイにの3社はローカル5G検証システムの構築を開始したことを発表しました。
以前からローカル5Gがケーブルテレビ局が実施主体となり、その技術支援を大手メーカーが行うと言われてきましたが、今回はその先駆けとなる動きです。
ローカル5G検証システムの構築を開始するまでの動きを見ていきましょう。
富士通ら3社が構築|2020年10月スタート予定
プレスリリースでは「FNETSと富士通、ケーブルメディアワイワイでは、地域の工場や農業、自治体などが抱える様々な課題を解決するインフラ構築の手段として、ローカル5Gの活用を研究してきました」と発表しています。
今回は、その研究を実験に写すフェーズに入ったと言えるでしょう。
ローカル5Gに必要な光ケーブル網や電柱などのインフラをすでに保有しているケーブルテレビ局はローカル5G構築に欠かせない存在と言われており、今回、富士通は宮崎県の延岡・日向エリアを中心に事業展開しているケーブルテレビ局「ケーブルメディアワイワイ」と組んで、ローカル5G検証システムを構築します。
このシステムは2020年10月にスタートする予定です。
各社がそれぞれの役割を担ってローカル5Gを運用する
今回のローカル5G検証システムで組んでいる3社の役割はそれぞれ以下のようなものです。
- FNETS: 無線局免許申請支援、無線エリア設計、電波伝搬測定、ネットワーク設計および工事
- 富士通: ローカル5G検証システム(コア装置、無線基地局など)の提供、実証実験支援
- ケーブルメディアワイワイ: ローカル5G検証システムの運用計画
大手電気メーカーである富士通が技術を提供し、富士通傘下のFNETSがネットワーク設計や無線局免許申請支援などのノウハウを提供します。
そして、ローカル5G構築に欠かすことができない光ケーブルや電柱をすでに保有しているケーブルメディアワイワイはローカル5G検証システムの運用計画を担うという役割です。
大手の技術提供と免許申請支援によりローカル5Gは普及する
今回のように大手電気メーカーや商社などが技術と免許申請支援などをケーブルテレビ局に提供し、ケーブルテレビ局と大手企業が一緒にローカル5Gを推進していく流れは、今後ローカル5Gが普及する流れの中でスタンダードなものになるでしょう。
同じように住友商事も、ケーブルテレビ数社と一緒に「グレープ・ワン」という無線プラットフォーム事業の展開を行う会社を設立し、グレープ・ワンがケーブルテレビ局に無線プラットフォームの設置を支援するというスキームを発表しています。
今回の富士通とケーブルメディアワイワイの動きもこれと同じです。
今後は「大手企業が技術を提供し、免許申請を支援し、ケーブルテレビ局が運用する」というローカル5G普及のためのスタンダードな形になっていくでしょう。
ケーブルメディアワイワイに設置されるネットワーク
それでは、今回の富士通とケーブルメディアワイワイの検証システムでは具体的にどのようなネットワークが導入されるのでしょうか?
コア設備とエッジ設備をローカル基地局で結ぶ
このシステムでは、コア設備をケーブルメディアワイワイに設置します。
コア設備とはIAサーバ上のソフトウェアで5Gの通信制御、ユーザ認証、データ転送などの機能を実現する設備です。
次に実証実験先にエッジコア設備とローカル基地局とBWA(Broadband Wireless Access:広帯域移動無線アクセス)基地局を設置します。
ローカル基地局とBWA基地局からの情報をエッジコア設備が収集し、コア設備に届け、その情報をケーブルメディアワイワイが管理運用するという仕組みになっています。
これによって一地域や特定の設備に5Gのローカルネットワークを構築することができるようになります。
NSA方式で構築
また、今回のシステムでは、4G LTEのネットワーク基盤を流用するNSA(ノンスタンドアロン)方式で無線基地局を開局しています。
NSA方式とは、制御信号はLTEを利用し、ユーザデータは5Gを利用する5Gシステムの通信方式となっており、4Gコアネットワークを利用するため、大手キャリアの5G通信網が構築されなくてもローカル5G通信網を構築することができます。
ローカル基地局は工場や農地に設置可能
末端のローカル基地局は工場や農地に設置することが可能です。
理論上はエッジコア設備とローカル基地局とBWA基地局が設置できるところであれば、どのような場所でも5Gローカルネットワークを構築することが可能です。
今後はスマート工場の実現および地域課題解決の実証実験を行なっていくと3社はプレスリリースしています。
ローカル5G検証システムでできること
今回のローカル5G検証システムで実現できることとして以下の3点が挙げられています。
- 遠隔監視やセンシング
- リモート作業支援
- 実用化に向けた取り組み
富士通とケーブルメディアワイワイのローカル5G検証システムでどのようなことが実現できるのか詳しく解説していきます。
遠隔監視やセンシング
5Gは無数のカメラやセンサーのデータを大量かつ瞬時に通信することができます。
工場などに大量のセンサーやカメラを設置することで、遠隔地からでも工場のモニタリングなどを行うことができます。
また、街中などにカメラやセンサーを仕掛けることで、異常があった時に瞬時にセンサーが反応し災害などを未然に防ぐことができるようになるかもしれません。
リモート作業支援
ローカル5G環境を工事現場などに構築しておくことで、重機に設置されたカメラの映像を遠隔地の管制室で監視・リモート操作などを行うことができることも期待されています。
5Gが遅延がないので、今起こっていることを今伝えることができます。
これによって遠隔地から工事現場や災害現場での作業ができたり、無人で農業機械を操ることができるようになることが期待されています。
実用化に向けた取り組み
3社が行う実証実験では、遠隔監視やセンシングなどの情報データを集めて、実用化に向けた取り組みを行うとしています。
このような取り組みが進んで行けば、自動運転や遠隔操作やスマート工場の実現などは遠い未来の話ではないかもしれません。
大手キャリアの5G通信網構築よりも早くなる?
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手キャリア3社の5G通信網構築は遅れています。
全てのキャリアで5Gを接続することができるのは日本の中のほんの一部だけとなっており、地方にまで5Gが届くのは数年程度先になりそうです。
このようなことをしている間にローカル5Gはどんどん実験の場を広げ、早ければ2021年には実用化がスタートするでしょう。
多くの地方においては大手キャリアの5G通信開始よりも地域のケーブルテレビ局が敷設するローカル5Gネットワーク構築の方が早いかもしれません。
現にJ:COMをはじめとしたケーブルテレビはすでに4k放送を普通に始めており、インターネットも非常に早く接続することができます。
大手キャリアがゆっくりしている間にも次世代通信はケーブルテレビが先導していくのかもしれません。