日本の農業は、就農者の高齢化と担い手不足という構造的な課題を抱えています。農林水産省の統計によれば、農業を主な仕事とする基幹的農業従事者は約102万人、平均年齢は約68歳で、65歳以上が約7割を占めます。人が減り、残る人も高齢化していくなかで、同じ面積を同じ人手で守り続けることは現実的ではなくなりつつあります。その解決策として期待されるのが、5Gを活用したスマート農業です。
2020年当時は「実証実験」の段階でしたが、2026年現在は実導入のフェーズに入りました。本記事では、5Gが農業をどう変えるのか、具体的な活用例と導入のハードル、後押しとなる制度の動きを解説します。
目次
スマート農業とは
スマート農業とは、ロボット技術・IoT・AI・通信技術を組み合わせて、農作業の省力化と精密化を図る取り組みです。5Gはその「神経」にあたる部分を担います。
5Gで実現するスマート農業の具体例
| 用途 | 仕組み | 効果 |
|---|---|---|
| ①農機の自動運転 | GPS+5Gでトラクター等を無人化。低遅延で障害物検知から即停止 | 1人で複数台監視、担い手不足の解消 |
| ②ドローン監視・散布 | 高精細画像を即時転送、AIが病害虫を判定 | ピンポイント散布で農薬費を削減 |
| ③圃場センサー | 土壌・気温・湿度・日照を多数センサーで常時計測 | 勘と経験をデータ化、技術継承にも活用 |
| ④収穫ロボット | AIが熟度を画像判定、アームが選択収穫 | 最も深刻な収穫作業を省力化 |
| ⑤畜産モニタリング | センサーで体温・活動量を計測(北海道で乳牛の実証例) | 発情・疾病の早期発見 |
| ⑥遠隔営農指導 | スマートグラス映像をローカル5Gで熟練者へ伝送 | 指導者の移動なしで技術伝承 |
| ⑦山間部の遠隔操作 | NTT・クボタ・NTTドコモが2026年5月に共同実証。モバイル回線が不安定な区間を衛星通信で補完し、映像品質を制御しながら伝送 | 5Gが届きにくい中山間地でも遠隔操作に前進 |
ローカル5Gという選択肢
農地は郊外や山間部が多く、キャリアの5Gエリアが手薄になりがちです。そこで有力なのが、企業や自治体が敷地内に専用の5G網を構築できるローカル5G。大規模な農業法人や自治体主導の営農団地では現実的な選択肢になります。北海道岩見沢市では、ローカル5Gによる農機の無人自動走行や、土壌水分センサーなど各種データを使った作業最適化が自治体主導で実証されています。
| キャリア5G | ローカル5G | |
|---|---|---|
| 導入コスト | 低い(月額制) | 高い(数千万円規模) |
| エリア | キャリア次第。農地は手薄なことも | 自分で設計できる |
| 向いている規模 | 個人・小規模 | 農業法人・自治体 |
ローカル5Gは今どれだけ使われているか
ローカル5Gは「これから始まる技術」という印象を持たれがちですが、制度としてはすでに動いています。総務省の電波利用ポータルによれば、令和8年(2026年)6月末現在、ローカル5Gの免許人は134者、基地局数はサブ6とミリ波を合わせて約1,710局です。
キャリアの全国5G基地局が30万局を超えることを踏まえると規模は小さく見えますが、ローカル5Gは必要な場所に必要な分だけ置く仕組みであり、数の少なさがそのまま実用性の低さを意味するわけではありません。農業分野では、圃場や施設という「範囲が決まった場所」を覆えばよいため、この考え方と相性がよいと言えます。
農地でローカル5Gを使うときの制度上のポイント
導入を検討する場合、費用や機器より先に押さえておきたいのが免許の仕組みです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用する周波数帯 | サブ6(4.5GHz帯)とミリ波(28GHz帯)の2つ。農地のように広い範囲を覆うならサブ6が基本 |
| 自己土地利用 | 自分が所有する土地・建物の中で使う形態。他のローカル5G局からの混信に対して保護を求められる。申請時に登記事項証明の確認がある |
| 他者土地利用 | 自分の土地でない場所で使う形態。その場所で自己土地利用をする人の運用が優先される |
| 共同利用 | 令和5年8月の制度改正で追加。1つの基地局を複数の利用者が共同で使う場合に、一定条件下で共同利用区域を設定できる |
| 申請にかかる期間 | 免許申請後の標準的な処理期間は約1か月半。近隣に既存のローカル5G局がある場合は、事前の干渉調整が必要になることがある |
自分の農地で使うなら「自己土地利用」が基本形になります。一方、複数の農家が共同で1つの基地局を使いたいといったケースでは「共同利用」の枠組みが選択肢になります。借地で営農している場合は自己土地利用に当たらない点は、事前に確認しておきたいところです。
導入のハードル
期待の大きい分野ですが、普及には課題も残ります。
- 初期投資の大きさ:農機の自動運転対応やセンサー網の構築には相応の費用がかかります
- エリアの問題:5G人口カバー率は98.6%ですが、これは「人口」ベース。農地のような人口希薄地域は手薄になりがちです
- 費用対効果の見極め:小規模農家では投資を回収しきれないケースがあります
- 使いこなす人材:機器の設定やデータの読み解きができる人材の確保が必要です
このため現状は大規模な農業法人や自治体主導のプロジェクトが先行し、個人農家への波及はこれからです。エリア面では、2026年5月にNTT・クボタ・NTTドコモがモバイル通信と衛星通信を組み合わせ、山間部でもロボット農機を安定して遠隔操作できる技術を共同実証するなど、課題解消に向けた動きも出ています。導入検討時は国や自治体の補助事業・認定制度の確認をおすすめします。
後押しとなる制度:スマート農業技術活用促進法
費用対効果の見えにくさは、スマート農業普及の大きな壁でした。2024年10月1日施行のスマート農業技術活用促進法は、農業者などが作成した計画を農林水産大臣が認定し、金融・税制の特例措置を与える制度です。
| 計画の種類 | 内容 |
|---|---|
| 生産方式革新実施計画 | スマート農業技術の活用とあわせて、生産方式そのものを見直す計画。2026年8月6日時点で220計画が認定済み |
| 開発供給実施計画 | スマート農業技術の開発・普及に関する計画。2026年7月31日時点で68件が認定済み(自律走行型自動草刈機、AI選果機、イチゴ・トマトの自動収穫ロボット、子牛の非接触健康監視システムなどが対象) |
注目したいのは認定のペースです。開発供給実施計画の認定件数は、令和8年2月25日時点で49件、5月29日時点で54件、7月31日時点で68件と推移しており、直近5か月で約1.4倍に増えました。制度が動き始めた初期の様子見が終わり、実際に申請へ動く事業者が増えている段階だと読み取れます。スマート農業技術の選択肢そのものが今後さらに増えるということでもあり、導入を検討している側にとっては「急いで決めるより、認定済み技術の一覧を定期的に見直す」ほうが合理的な局面です。
5Gやローカル5Gは初期投資の重さがネックになりがちですが、こうした認定による税制・融資の優遇は負担軽減の選択肢の一つです。導入を検討する際は、農林水産省の公式情報で最新の認定状況や要件を確認することをおすすめします。
出典:総務省 電波利用ポータル「ローカル5G」(免許人数・基地局数は令和8年6月末現在/https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/system/ml/mobile/local5g/index.htm)、農林水産省「スマート農業技術活用促進法」認定状況ページ(開発供給実施計画=令和8年7月31日時点、生産方式革新実施計画=令和8年8月6日時点)
5Gの整備状況と農業への影響
スマート農業の前提となる通信環境は着実に整ってきました。
| 指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 5G人口カバー率 | 98.6% | 2025年度末(2026年3月末) |
| 都道府県別の最低(島根) | 89.2% | 2025年度末(2026年3月末) |
| 5G基地局数 | 30万2,118局 | 2024年度末(2025年3月末) |
| Sub6展開率 | 75.5% | 2024年度末(2025年3月末) |
※人口カバー率と基地局数・Sub6展開率は総務省の別調査のため、公表時点が異なります(いずれも2026年8月時点で総務省が公表している最新値)。山間部などの圏外対策としては、衛星直接通信(auのStarlink Directなど)も実用化が進んでいます。
よくある質問
Q. 個人の小規模農家でも5Gスマート農業は導入できますか?
センサーによる環境モニタリングやドローンの活用など、部分的な導入は可能です。農機の自動運転のような大規模投資は、まず補助事業やスマート農業技術活用促進法の認定制度の活用可否を確認することをおすすめします。
Q. 農地は5Gエリアに入っていますか?
カバー率98.6%は人口ベースの数字で、農地のような人口希薄地域は手薄な場合があります。各キャリアのエリアマップで実際の圃場の住所を確認してください。
Q. 4Gでは駄目なのですか?
センサーによるデータ収集程度なら4Gでも可能です。4K映像の常時伝送や農機の精密な遠隔制御では5Gの低遅延・大容量が必要になります。
Q. ローカル5Gの免許は農家でも取れますか?
土地・建物の所有者や通信事業者などが対象で、農業法人や自治体が免許人となる例があります。申請後の標準的な処理期間は約1か月半で、近隣に既存局がある場合は干渉調整が必要になることもあります。借地で営農している場合は「自己土地利用」に当たらないため、利用形態の確認が先に必要です。
Q. スマート農業技術活用促進法の認定を受けるとどんなメリットがありますか?
生産方式革新実施計画や開発供給実施計画として農林水産大臣の認定を受けると、金融・税制上の特例措置を利用できる仕組みになっています。詳細な要件や手続きは農林水産省の公式ページで確認してください。
まとめ
- 5Gの3特性(高速大容量・低遅延・多数接続)がスマート農業を支える
- 農機の自動運転、ドローン、圃場センサー、収穫ロボット、畜産管理、遠隔営農指導に加え、衛星通信を併用した山間部の遠隔操作も実証段階に
- 2026年現在は実証段階を終え、実導入フェーズへ
- 農地のエリア対策としてローカル5Gが有力な選択肢
- 課題は初期投資・エリア・費用対効果・人材。大規模法人や自治体が先行
- 2024年施行のスマート農業技術活用促進法により、開発供給実施計画の認定は2026年7月末時点で68件、生産方式革新実施計画は2026年8月時点で220計画に拡大。金融・税制の特例措置を利用できる
※本記事は2026年8月時点の最新情報に更新したものです。料金・仕様・価格は変更される場合があるため、最新情報は各社公式サイトをご確認ください。