総務省は昨年、5G技術に係る利活用アイディアコンテストを開催しました。コンテストには全国の企業や自治体、大学から計735組が参加し、5Gが導く未来のビジョンを示しました。
そして今年、そのコンテストの結果を基に、全国で実証実験が行われようとしています。
これまで、今年始まる実証実験のうち、主なものをご紹介してきました。
ここでは、番外編として惜しくも実証には至らなかったものの、高い評価を得ていたアイディアをいくつかご紹介します。
目次
ドローンによるスポット街燈+警備サービス
- 発表者:TIS株式会社
街灯がなく夜間の歩行が危険な郊外で、ライトとカメラを装備したドローンを飛ばしてガードマンにするというアイディアです。
「街灯の設置が進まない地域で5Gやドローンの敷設が進むのか」という疑問も感じましたが、おそらく「面での整備が必要な街灯よりも、点で使えるドローンの方がコストを抑えられる」という判断なのでしょう。
帰宅する住民のほか、夜道を歩く外国人観光客もユーザーに想定していて、夜間の案内人としても使えそうなのは面白いところです。
実証実験に至らなかったのは、おそらく、ドローンに対する法規制により、実用化の道筋が立たないためだと思われます。
この提案に限らず、ドローンを主役とした提案は、実証実験まで持っていくのに苦戦している印象です。
災害時に避難誘導を担うペットロボット
- 発表者:近畿総合通信局
災害時、メディアや自治体の警告を無視して、避難せず亡くなる方がいます。
これは「正常性バイアス」という心理効果が働くためです。
いざ警告を受けても「自分は関係ない」「自分は大丈夫だ」とつい考えてしまうのです。
確かに、よく知らない人が発する不特定多数への呼びかけを見て「これは自分に向けたメッセージだ」と感じるのは困難です。
例えば、アスリートが「金メダルを取れたのは、国民の皆様の応援のおかげです」と言っても、真に受けて「これは俺へのメッセージだ。このアスリートは俺に感謝している」と思う人はあまりいないでしょう。
危険を自分事として感じてもらうためには、この逆の呼びかけ――つまり、よく知っている相手が発する、自分一人に向けた呼びかけ――が有効です。
近畿総合通信局は、ペットロボットを使えば、この呼びかけができると考えました。
ペットロボットは、持ち主と生活して信頼を得ているので、警告を他人事に思われる心配がありません。
センサーを5Gに繋げば、災害時の状況をリアルタイムで把握して、的確な避難指示を出すことができます。
万が一の場合には、救急や消防への通報もできます。
ペットロボットが普及すればスタンダードになりそうな提案ですが、この場合、5Gの役割は、スマホなどの端末を使う場合とほぼ同じであり、実現に向けた課題はむしろペットロボット側にあります。
実証実験に至らなかったのは、おそらくその点が原因でしょう。
サイバー空間アバターを使った自律協調型ドローン
- 提案者:愛媛大学
複数のドローンを同時に飛ばす場合、問題になるのは、周りのドローンをどうやって認識するか、という点です。
すぐに思いつくのは、ドローンにセンサーやCPUを載せることですが、重く高価になり、継続飛行時間が落ちます。
愛媛大学は、現実のドローンが相互検出できないなら、仮想空間にドローンのアバターを作り、アバターと現実をリンクさせればいい、と考えました。
仮想空間内の情報は全て端末の制御下にありますから、アバターの位置は完璧に把握できます。
全てのドローンがアバターの通りに飛べば、個々のドローンが周囲の状況を見る必要はありません。
これは、簡単に言えば、いままで各自の判断で飛んでいたドローンを、5Gを使って1つの強力な頭脳に繋ぎ、一括で制御しよう。というアイディアです。
実証実験のテーマとしては抽象的だと判断されたのかもしれませんが、応用範囲が広く、方法論もユニークで、更なる発展が期待される提案です。