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5Gは社会をどう変えていく?①令和元年の実証実験の内容を解説

総務省は昨年、5G技術に係る利活用アイディアコンテストを開催しました。

コンテストには全国の企業や自治体、大学から計735組が参加し、5Gが導く未来のビジョンを示しました。

そして今年、そのコンテストの結果を基に、全国で実証実験が行われようとしています。

この記事では、最新の実証実験が目指すものと、その内容を解説していきます。

(全3回+番外編/第1回)5Gが活躍できる分野を探る手助けになれば幸いです。

第1回はクレーン作業、音の視覚化、観光分野への5G活用の実証実験をご紹介していきます。

クレーン作業の安全確保

クレーン作業の安全確保
  • 発案者:愛媛大学理工学研究科分散処理システム研究室
  • 技術目標:複数の基地局、端末を同時に運用しつつ、平均4Gbs以上の超高速通信を維持。

四国・瀬戸内地方は、古くから造船が盛んなところです。

造船は、船体を組んだ後、資材などを出し入れするためにクレーンが必須ですが、作業には非常に高度な技術が必要で、運転手の不足が深刻化しています。

その問題を解決すると期待されているのが5G技術です。

クレーン作業の抱える課題

大型船やビルなどを作るときに使われるクレーンは、運転台の高さが時に地上60mにもなります。

高さとは、つまり地上からの遠さですから、運転台への出入りも気軽にはいきません。

排泄など基本的な問題にも不自由します。

運転手は、不安定な高所において、常に機械の振動に晒され、ときに強風に煽られながら、困難な作業に挑まなければなりません。

造船時には、船体に資材などの積み下ろしを行いますが、船体が邪魔で中の様子が見えない、という問題もあります。

これは、目隠しをしたままUFOキャッチャーに挑むような難題です。

しかも、アームの先には重量物がついていて、操作を誤ると深刻な被害が出るのです。

愛媛大学は、これらの問題を5G技術で解消しようとしました。

5G技術の活用点

地上に運転センターを作り、クレーンを遠隔操作できれば、運転者の負担は大幅に軽減されます。

広い空間でチームと連携しながら作業でき、スキルの継承もしやすくなります。

極論、現場に出向く必要すらないので、エリア内の作業を集約して、シフトをローテーションしながら進められるようになります。

また、現場の映像を5G回線で中継すれば、これまで運転台から見えなかった死角の部分を潰すことができます。

活用にあたっての技術的課題

5Gの電波は障害物に弱く、民家のガラス窓すら透過できません。

そのため、船体という分厚い障害物をどう回避するか、という点がまず問題になります。

愛媛大学は、この問題に対し、クレーンの先端に電波の反射板をつけて中継する、という案を出しました。

また、精密さが求められるクレーン運転においては、中継される映像や音響に遅延がなく、しかも完全に同期している必要があります。

このアイディアを実用レベルまで持っていくには、実際の現場環境で5Gの遅延特性を計測し、どの程度のラグなら安全に運用できるのか検証する必要があります。

その上で、ラグのレベルを安全運用範囲内に収めたまま、複数の計測機器を安定して同期させる方法を見つけなければなりません。

この事業は、愛媛大学と株式会社NTTドコモが協力して実施します。

5G+AR+AIによる音の視覚化

5G+AR+AIによる音の視覚化
  • 発案者:東海総合通信局
  • 技術目標:複数の基地局、端末を同時に運用しつつ、平均4Gbs以上の超高速通信を維持。

ウェアラブルデバイスから拾った環境音をAIに分析させ、状況に合わせてARグラスに警告を発するなど、必要なサポートを行う。というアイディアです。

なお、このアイディアはA4用紙1枚に要点を4つ箇条書きし、あとは図だけ、というワンアイディアの応募から実証まで漕ぎつけています。

例えば、車の走行音を察知して警告を表示したり、会話の流れを読んで必要な情報をサジェストしたり、といった使い方ができそうです。

複合的な案で、どちらかといえばAI方面の課題が大きいように思われますが、個人に密着したデバイスなので、普及すれば大量のユーザーが同時に接続することが想像されます。

また、警告を発したり会話を補助したりするには、表示タイミングに遅延が出ないことが重要です。

すなわち、多数同時接続時にも十分な通信性能を確保できるか、という点が実験のポイントになるでしょう。

この事業は、サン電子株式会社と株市会社NTTドコモが協力して実施します。

5G×BodySharing技術による観光イノベーション

5G×BodySharing技術による観光イノベーション
  • 発案者:一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター
  • 技術目標:複数の基地局、端末を同時に運用しつつ、平均4Gbs以上の超高速通信を維持。

自然由来の観光資源は、多くの場合、アクセスの悪さとトレードオフです。

魅力があっても体験してもらえないというのは、多くの地方自治体が感じている悩みでしょう。

沖縄ITイノベーション戦略センターが提案したのは、5GとBodySharing技術を使って、現地に行かなくても魅力を体験できるコンテンツを作ることです。

BodySharing技術とは?

この提案では、VRアバターとユーザーの感覚を共有する技術、という意味で使われています。

例えば、指先に鳥が止まった時、鳥の重さで指が下に動きます。

BodySharingデバイスは、VR空間内で鳥が止まった瞬間に電気信号を流して、ユーザーの指を下に動かします。

実際には、指を動かしているのはユーザーの筋肉ですが、ユーザーには指を動かした意識がないので、「外力で指が動かされた=鳥が指に乗った」と感じることになります。

このような操作により、アバターの体感をユーザーにシェアするわけです。

5GとBodySharingの連携

この技術と5Gの特性を組み合わせることで、VR体験は圧倒的にリアルに近づきます。

沖縄ITイノベーション戦略センターは、沖縄北部マングローブ林でのカヤック体験を活用例に挙げています。

まず、ユーザーの装着したウェアラブルデバイスで動きを計測し、漕ぐ動作と連動してVR空間のボートが進みます。

同時に、BodySharingデバイスが腕に水の抵抗を伝え、まるで現実にカヤックに乗っているかのような体感を与えます。(揺れなどの要素は、専用の不安定な椅子に座ってもらうなど、別の手段で補う必要があります)

5GはVRアバターの挙動と身体の動き、フィードバックをラグなく繋げる、大容量/低遅延の通信手段として活用されます。

この提案が実現すれば、例えば高齢者や身体障碍者でも、遠隔地から安全にアクティビティを体験することができます。

たいへん素晴らしいアイディアですが、この技術が定着して、現地の魅力を手軽に体験できるコンテンツが全国から発信されたとき、それが現実の観光の呼び水になるのか、それともそれらのコンテンツを巡るだけで満足されてしまうのか。

言い換えれば、無料または圧倒的な低価格で、一瞬で、世界各地の魅力を体験できるようになっても、観光客は減らないのか。というのは、興味深いテーマです。

この事業は、H2L株式会社と株式会社NTTドコモが協力して実施します。