夢の技術と言われる5Gですが、決して完璧な通信手段とは言えません。
そもそも5Gで主力となる周波数帯(ミリ波)は、ある欠点により、通信インフラとして使うのは不可能と言われていたのです。
その欠点は、実用化にこぎつけた今でも完全には消えていません。
この記事では、5Gの抱える弱点と、そこから予測される今後の展望、そして補足的に、5Gの電波が人体に与える影響について説明します。
目次
5Gの欠点とは?
5Gには、1つだけ従来型のネットワークサービスに大きく劣る点があります。
それは、カバーエリア(電波の届く範囲)の狭さです。
5Gのミリ波のカバーエリアは、従来型のサービスの1/10以下しかなく、基地からごく近い場所でしか電波が入りません。
ですから、相当数の基地局を確保しなければスカスカで隙間だらけのネットワークになってしまいます。
当然ですが、いくら素晴らしいサービスでも、使いたい場所が対象エリア外だったら意味はありません。
また、仮に住む場所が対象エリア内でも、それはそれで心配な点があります。
5Gの高速通信を実現するミリ波は基地局のすぐそばでしか使えません。
家でミリ波の5Gが使えるということは、家のすぐそばに基地局があるということ。
また、電磁波の影響はないのか?と気になる方もいるでしょう。
カバーエリアが狭すぎる5G……。メリットを享受できる地域は?
大手携帯キャリア4社(NTTドコモ/KDDI/ソフトバンク/楽天)は、5Gサービス導入のための計画書を国に提出しています。
その計画書によれば、2025年までには新たな基地局がほぼ全国をカバーし、日本中どこでも、4社いずれかの5Gサービスを利用できるようになる。ということになっています。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
上の図は、5年後の5G基地局の展開目標を表した地図です。
黄色のメッシュが開設予定地域、青のメッシュが非開設予定地域です。
こう見ると、確かに全国をカバーしているように見えます。
しかし、この地図では、10㎞四方に1つでも基地局があれば「開設予定地域」と表示されてしまいます。
ところが、5Gの基地局は、10㎞四方に1つ程度では全く足りません。
繰り返しになりますが、5Gのミリ波のカバー力は、基地から1㎞未満の距離でも電波障害が発生するレベルです。
実際のカバー地域を踏まえてこの地図を塗り直すと、かなりの地域が青に変わるでしょう
それでも、書類上は「全国をカバーした」ことになるわけです。
それでは、大手4社の基地局設置計画を見てみましょう。
また、下図は4Gの基地局数です。
インフラ企業としての社会的使命を踏まえて展開率を重視するNTTドコモ/KDDIに対し、需要の高いエリアに絞って勝負するソフトバンク/楽天。といった構造が見えます。
が、今注目していただきたいのは、各社の基地局数です。
従来型サービス(4G)の基地局数と比べてみてください。
ただでさえカバーエリアの狭い5Gのミリ波。
5年後においても、基地局が全く足りていないことがわかると思います。
つまり、5Gでミリ波の高速が日常を変えるのはまだまだ先(都会だけ)で、しばらくの間は、ミリ波は対応エリアに出向いて体験するものになる。といえるでしょう。
ただし、既存回線の乗せかえる、sub-6GHzという周波数は早い段階から使用することができると考えられます。
ただし、sub-6GHzはミリ波よりもだいぶ速度が遅くなります。
5Gの電波特性は? 人体に悪影響はないの?
5Gの電波(主力帯域)は、これまでの4Gの電波よりも波長が短く、エネルギー的にはより強力になります。
身近なところでいえば、4Gは電子レンジと同じ帯域、5Gではレーダーなどと同じ帯域です。
こう聞くと恐ろしいような気がしますが、同じ電磁波である可視光や赤外線はもっと波長が短いので、例えばこたつの電磁波の方が強力です。
だから、それほど心配する必要はありません。
電磁波が人体に与える影響は主に熱の発生です。
これは、電子レンジや赤外線がものを温めるのと同じです。
例えば、電子レンジは、エネルギー的にはそれほど強力でない電磁波を大量に浴びせてものを温めます。
では、5G対応機器はどのくらい電磁波を出すのでしょうか?
結論から言えば、6分間浴び続けた場合に体温が0.02度上がる量以下です。
WHOは、20年分の研究を精査した結果、携帯電話の電磁波による健康への影響は確認できないと発表しました。
また、電磁波過敏症の人を対象にした実験では、被験者を電磁波に晒しても全く気づかなかった、という結果も出ています。
以上のことから、5Gの電波は、人体に全く影響を及ぼさないわけではありませんが、その他の日常の刺激と比較すれば軽微といえるでしょう。
5Gはどう普及していく? 競合技術との提携が鍵か。
5Gの前身である4Gサービスは、登場から数年で全国の家庭に普及しました。
しかし、5G回線(ミリ波)も同様に広がっていくと考えることはできません。
5G規格の電波は、民家の壁やガラス窓さえ透過できないからです。
4Gサービスは、スマホさえ手元に届けばすぐに利用できますが、5Gの場合はそうはいきません。
電波を室内に導く環境が必要なのです。
5Gを4Gと同じように使うには、4G回線の数十倍の基地局が必要だと言われています。
これは、大袈裟に言えば、ほとんど建物ごとに基地局が必要な規模です。
5Gは、4Gの場合とは全く異なる普及プロセスを辿ることになる、と想像できるでしょう。
5Gの普及を考える上では、4Gよりも、光通信サービスの普及プロセスがむしろ参考になるかもしれません。
光通信は、当時画期的な超高速通信でしたが、手間と価格が普及を妨げた、という点で5Gに近いものを感じます。
光回線は登場から20年弱が経過し、普及率は70%程度。
5Gには国の後押しがあり、専用のリッチコンテンツも数多く登場する見込みですから、光回線よりは早く広く普及が進むと思われます。
特に、基地局を充分確保できる人口密集地では急速に広がる可能性が高いです。それでも、ミリ波の5Gが4G回線に完全に取って代わるのは時間がかかり、しばらくは5Gという名のsub-6GHz周波数で、「ミリ波よりも遅いが4Gよりは早い」という速度を体感することになるでしょう。
ちなみに、5Gには競合する技術もあります。
Wifiの新しい規格(Wifi-6)で、そちらも既に実用化されています。
通信速度や同時接続可能台数には5Gにやや分がありますが、Wifi-6も十分に高性能で、5Gのような目立った弱点がありません。(※)
ですから、家庭ではWifi-6、野外や大型施設では5Gというように上手く住み分けできれば、超高速通信サービスが社会に浸透するのはずっと早くなるかもしれません。
※一般家庭で利用する場合