【2026年8月 追記】
5Gと新型コロナウイルスを結びつける説は、その後WHOや各国当局・科学界によって明確に否定されました。2026年現在、日本の5G契約数は1億2,632万件に達していますが、5G電波による健康被害の科学的根拠は確認されていません。本記事が扱うICNIRP 2020年ガイドラインは、2026年8月時点でも改定されずに国際的な事実上の標準として使われ続けています。加えてWHOの委託で行われた系統的レビューの結果が2023〜2025年に順次公表され、携帯電話の使用とがんの関連は認められないという結論が示されました(記事後半で詳報)。
国際的に5Gを巡る健康被害の議論は絶えることはありません。
イギリスでは5G基地局を放火する騒ぎまで起きていますが、このたび、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が新しいガイドラインを公表し、「5Gは健康に影響がない」ということを結論づけました。
これまでは政府などが中心となって5Gの健康被害を否定してきましたが、ICNIRPという比較的中立性の高い組織が発表したガイドラインの中に5Gと健康被害の関係性を否定したことに注目が集まっています。
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が発表したガイドラインの中身と、5Gの健康被害への懸念が消えるかどうかを考察していきます。
目次
5G電波には過度の健康リスクがないとの結論を公表
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が2020年に発表した新しいガイドラインでは、5Gは健康リスクとは無関係であると発表されました。
これによって、5Gと健康被害の論争に一定の終止符が打たれることが期待されています。
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)とはどのような組織で、ガイドラインの中身にはどのようなことが記載されていたのか、詳しく解説していきます。
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)とは
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)とは1992年に国際放射線防護協会(IRPA)によってドイツで設立された非営利科学機関です。
ICNIRPの役割は、非電離放射線(ラジオ、マイクロ波、UV、赤外線等)の保護ガイダンスを提供するため研究や評価を行うことにあります。
ICNIRPは、疫学、生物学、医学、物理学と線量測定、光放射の分野をカバーする委員会で構成されており、メンバーは大学や放射線防護機関の科学者です。
大きなポイントはICNIRPのメンバーは出身国や研究所を代表しておらず、さらに営利会社に雇用されることはできないという点です。
そのため、ICNIRPは完全に中立な立場で非電離放射線(ラジオ、マイクロ波、UV、赤外線等)を評価することができるのです。
そのICNIRPが「5Gの電波は健康リスクがない」と公表したことには大きな意味があると言えるでしょう。
2020年のガイドラインでは5Gの健康被害はないと結論
ICNIRPのガイドライン策定の際の報道発表でICNIRP議長のEric van Rongen博士は以下のように述べています。
我々は、5Gの安全性が懸念されていることを承知しており、この改定されたガイドラインが人々に安心感を与えることを望んでいます。
〜中略〜
新ガイドラインは、特に6GHz超のより高い周波数範囲に対し、より良い、より詳細なばく露ガイダンスを提示するものであり、このことは、そうした高い周波数を用いる5G及び将来の技術にとって重要です。人々にとって覚えておくべき最も重要なことは、この新ガイドラインを遵守している限り、5G技術が害を生じることはあり得ない、ということです。
ICNIRPはICNIRPが提供するガイドラインさえ守っていれば6GHz超の高周波の電波であっても人体に悪影響することはないと結論付けています。
非電離放射線の国際機関であるICNIRPが人体への悪影響を否定したことは、5Gの健康被害に対する反論としては大きな意味を持つものだと言えるでしょう。
そもそも「非電離放射線」とは何か
ICNIRPの名前に入っている「非電離放射線」という言葉が、この議論を理解する鍵になります。
放射線は、分子から電子をはじき飛ばす(=電離させる)だけのエネルギーを持つかどうかで、電離放射線と非電離放射線に分かれます。DNAを直接傷つけて発がんにつながるのは前者、つまりX線やガンマ線、そして紫外線の一部です。
5Gが使う電波(Sub6の3.7GHz帯やミリ波の28GHz帯)は、可視光よりもはるかに周波数が低い非電離放射線の領域にあります。周波数が「高い」といっても、それは4Gとの比較の話であって、電離のしきい値からは何桁も離れているのです。
つまりICNIRPのガイドラインが規制しているのは、主に電波が体を温める作用(熱作用)です。電波を浴びると体温が上がりすぎることを防ぐため、十分な安全率をかけた上限値が定められています。「5Gは新しい電波だから未知のリスクがある」という言い方がされがちですが、物理的な性質としては、電波が人体に及ぼす主な作用は4Gまでと同じ枠組みで説明できるものなのです。
5Gを巡る健康被害の噂とは
5Gを巡る健康被害の噂にはどのようなものがあったのか、少しおさらいしておきましょう。
状況証拠的に「5Gには健康被害がある」と噂されているものと、都市伝説的なものが多くなっています。
高周波が免疫力を低下させる
高周波の電波を人体に浴びると免疫力が低下するとの主張があります。
例えば、以下のような事象は5Gの高周波の電磁波が原因と起きていると主張されています。
- 過去20年間で地球上から昆虫の80%が死滅した。もし5Gが本格稼働すれば100%が死に絶える。
- 2018年にオランダのハーグでムクドリが5Gの影響で大量死
- 妊娠中の牛が電磁波を発する基地局の近くにいると、生まれた253頭の子牛のうち32%に当たる79頭が白内障に罹患
関連:5Gでガンになる?悪影響派と問題ない派の意見の全てを解説します
もちろん、上記の主張と5Gの電波を結びつける有力な科学的根拠があるわけではありません。
しかし、5Gの電波に関しては高周波が免疫力を低下させ、上記のような事象が実在すると信じている人がいるのも確かです。
5Gがコロナウイルス感染を拡大させている
また、新型コロナウイルスも5Gの影響によるものという都市伝説も多くの人が信じています。
その原因としては以下のようなことが考えられているようです。
- 新型コロナウイルス発症の地である中国武官は中国の5Gの一大拠点
- 世界の5Gのエリアマップと感染拡大地域のエリアマップが酷似している
- ダイヤモンドプリンセス号の船内にはミリ波が使用されていた
などなど、5Gのサービス開始と新型コロナウイルスの感染拡大の時期がちょうど被ってしまったため、この話はテレビ番組でも話題になり、広く知られる都市伝説となりました。
実際にこの話を信じたイギリスの団体が5Gの基地局を放火するという事件にも発展しています。
関連:5Gの電波がコロナを広げた?イギリスで流布された背景や噂の根拠
この話が本当であれば、5Gが敷設されていない国では新型コロナウイルスの感染は広がらないはずですが、5Gが始まっていないイランは世界の中でも最も最初に新型コロナウイルスの感染が広がった地域の1つです。
やはり根拠のない噂と考えた方が無難でしょう。
ガイドラインが出ても健康被害の懸念が消えない2つの理由
いくらICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)がガイドラインの中で5Gには健康被害がないと公表したとしても、おそらく世界中で5Gが当たり前のように使われ、健康には全く問題がないことが人間の身をもって証明されない限りは、今の段階では懸念が消えることはないでしょう。
その理由は以下の2つです。
- 科学的検証よりも状況証拠を5Gに結びつけているから
- 専門家にも健康被害を懸念する声があるから
5Gの健康被害に対する懸念が消えない2つの理由について詳しく解説していきます。
科学的検証よりも状況証拠を5Gに結びつけているから
5Gと健康被害の関係については、有力な科学的根拠はありません。
むしろ、科学的根拠に基づき主張しているのは「5Gは健康被害がない」と主張している側になりますが、それでも5Gと健康被害の関係を主張する意見は消えないでしょう。
彼らは、5Gのエリアマップと新型コロナウイルスの感染拡大地域のエリアマップが酷似するというような状況証拠だけを結びつけています。
世の中の不可思議な状況を「5Gのせいだ」と主張しているため、科学的根拠をもって「5Gに健康被害はない」と主張しても、健康被害への懸念は消えることはないでしょう。
専門家にも健康被害を懸念する声があるから
また、科学者の中にも5Gの健康被害を懸念する声があるのも事実です。
- ハーバード大学を退職した応用物理学のロナルド・パウウェル博士
- ワシントン州立大学の名誉教授で生化学の専門家マーティン・ポール博士
- イスラエルのアリエル大学で物理学を教えるベン・イシャイ博士
などの専門家は5Gの健康への悪影響について懸念を表明していますし、このような声を受けてアメリカの一部自治体は5G基地局の建設をストップしているところも存在します。
また、スイスでは国民的な5G反対運動を受けて、国全体でも5G基地局建設を一時ストップしている状況です。
健康被害を懸念する側にも科学的な主張があるので、やはりいくらICNIRPが健康被害を否定したとしても懸念を完全に払拭するまでには至らないでしょう。
【2026年最新】ガイドライン公表から6年、その後わかったこと
本記事のもとになったICNIRPガイドラインの公表から6年が経ちました。この間に何が起きたのかを、2026年8月時点の事実で整理します。
ICNIRP 2020年ガイドラインは今も現役
まず押さえておきたいのは、2020年のガイドラインは2026年8月時点でも改定されておらず、そのまま国際的な事実上の標準として使われているという点です。5Gの商用サービスが世界中に広がった6年間を経てもなお、基準を厳しくし直す必要は生じていない、というのが現在の状況です。
日本の電波防護指針も、この国際基準と同等の値を採用しています。総務省は「電波が人体に与える影響については国内外で60年以上の研究の蓄積があり、それらの科学的知見をもとに十分な安全率を考慮して基準値が定められている」と説明しています(総務省 電波利用ポータル)。
なお日本では2024年(令和6年)4月に情報通信審議会が一部答申を出し、吸収電力密度という指針値の導入と、6GHz〜10GHz帯における測定方法が整理されました。これは規制を緩めたものではなく、ミリ波のように体の表面付近でエネルギーが吸収される高い周波数に対して、評価のものさしをより実態に合わせて精密にしたものです。
WHOが委託した系統的レビューの結論
2020年当時、5G健康被害論争の火種の一つになっていたのが、WHOのがん専門研究機関であるIARC(国際がん研究機関)が2011年に高周波電磁界を「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(グループ2B)」に分類したことでした。この分類は限られた観察研究にもとづくもので、「関連を否定できない」という意味合いのものでしたが、しばしば「危険性が認められた」と受け取られてきました。
その後WHOの委託により、複数の研究チームが過去の研究をまとめ直す系統的レビューを実施し、2023年10月から2025年5月にかけて計12本のレビュー・メタアナリシスが学術誌 Environment International に順次掲載されました。
なかでも注目されたのが、5,000本を超える文献を対象に携帯電話の使用とがんの関係を検証したレビューです。結論は次のとおりでした。
- 携帯電話の使用と、脳腫瘍をはじめとする頭頸部のがんとの関連は認められなかった
- 10年以上の長期使用者に限っても、関連は認められなかった
- 通話回数や通話時間の多寡も、結果に影響しなかった
参考:Karipidis et al., Environment International 196 (2025)
一方で、これらのWHO委託レビューについては研究者の側から方法論への批判も出ています。「レビューの手法に欠陥があり、安全性を保証するものとまでは言えない」とする指摘が2025年に発表されており、この分野の議論が完全に決着したわけではありません。ただし、批判の中身は「安全だと断定するには証拠が足りない」という趣旨であって、「健康被害が確認された」という主張が新たに科学的に裏づけられたわけではない点は区別して理解する必要があります。
主要機関の見解を並べて比較する
5Gの健康影響について、どの組織が何を言っているのかを整理すると次のようになります。
| 機関 | 立場・示している内容 | 2026年8月時点の状況 |
|---|---|---|
| ICNIRP (国際非電離放射線防護委員会) |
ガイドラインを守る限り5G技術が害を生じることはあり得ない | 2020年版が改定されず継続適用 |
| WHO (世界保健機関) |
委託した系統的レビューで、携帯電話使用とがんの関連は認められないと報告 | 2023〜2025年に計12本が公表済み |
| IARC (国際がん研究機関) |
2011年に高周波電磁界をグループ2B(可能性あり)に分類 | 分類自体は維持。上記レビューを受けた再評価が今後の焦点 |
| 総務省 | 電波防護指針を策定。基準値はICNIRPと同等 | 2024年に吸収電力密度の指針値・測定方法を整理 |
| 批判的な研究者グループ | WHO委託レビューの手法に欠陥があり、安全性の保証にはならないと主張 | 2025年に反論論文を発表。議論は継続中 |
スイスやアメリカの反対運動はどうなったか
本記事の公開当時、5G基地局の建設を止めた自治体や国の例として、アメリカの一部自治体とスイスを挙げていました。
その後、5Gそのものの展開が世界規模で止まることはありませんでした。日本国内でも5G人口カバー率は98.6%(2025年度末・総務省公表)に達し、5G契約数は1億2,632万件(前年同期比+12.7%)まで積み上がっています。もし当時懸念されたような明確な健康被害が生じるのであれば、これだけの規模と年数の実運用で何らかの兆候が現れているはずですが、それを示す科学的な報告は確認されていません。
記事本文で「5Gが普及し、健康被害がないことを5G自ら証明できない限り論争は続く」と書きましたが、6年が経過した2026年時点では、その「実地の証明」がかなりの部分まで進んだと言ってよい段階に来ています。
まとめ
非電離放射線の専門研究機関であるICNIRPが5Gの健康被害はないという発表をしました。
中立性の高い専門機関が健康被害がないということを発表したことは、5Gが健康被害がないことを裏付ける非常に大きな材料だといえます。
しかし、これでも5Gの健康被害を懸念する声が消えることはないでしょう。
5Gの健康被害はもはや都市伝説化して多くの人に信じられています。
思えば4G LTEの時にも同じく健康被害を指摘する声がありましたが、4G LTEの普及によってその声はどこかに行ってしまいました。
今後5Gが多くの人に普及し、健康被害がないことを5G自ら証明することができない限りはこの論争と懸念は続くでしょう。
ただし、今回の発表によって、客観的に考えれば「5Gは健康には害はない」と結論付けてもよいのではないでしょうか?
そして本記事の公開から6年が経った2026年8月時点では、ICNIRPの2020年ガイドラインが改定されないまま運用され続け、WHOの委託レビューでも携帯電話の使用とがんの関連は認められず、日本の5G人口カバー率は98.6%に達しました。当時「今後の普及が証明してくれるだろう」と書いた部分は、6年分の実運用というかたちで相当程度が答え合わせされたと言えるでしょう。
一方で、「安全だと断定するには証拠が足りない」とする研究者の批判も残っており、電波の生体影響の研究そのものは今も続いています。過度に不安を煽る情報にも、逆に「もう完全に決着した」という単純化にも寄りかからず、公的機関の一次情報を確認する姿勢が引き続き有効です。
※本記事は2020年公開の内容をもとに、ICNIRPガイドラインのその後の扱い、WHO委託の系統的レビューの結果、日本の電波防護指針の動向など2026年8月時点の最新情報に更新したものです。