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【医療と5G】5G時代の医療の未来を考える

【2026年8月 追記】

本記事は2020年当時の見通しをまとめたものです。2026年現在、5Gは契約数1億2,632万件・人口カバー率98.6%まで普及し、当時の予測の多くが現実になりました。一方で自動運転や遠隔手術など超低遅延を要する分野は、5G SA(スタンドアローン)方式の普及とともに現在も発展途上です。

5G時代になれば医療が変わる——2020年当時、具体的に何が変わるとされていたのか。期待された効果を整理します。

5Gが医療にもたらすとされた4つの変化

遠隔医療で5Gが期待される理由
期待された効果 内容
遠隔診断の高精度化 CT・MRIなど高精細画像を高速伝送。数百km離れた専門医の診断が受けられる
AIによる診断支援 レントゲン・CT・MRIをAIが解析し、医師不足を補う
DtoD連携(医師間) 専門病院と地方病院が画像を即時共有。複数医師の目で見落としを防止
DtoP拡大(医師と患者) 離島・へき地や多忙な会社員など「医療難民」も受診しやすくなる

オンライン診療、保険適用の転換点

できごと
2015年 厚労省が「離島・へき地はあくまで例示」と通知。対象拡大の道筋がつく
2018年 オンライン診療が保険診療化

この制度変更の恩恵を受けるとされたのが、近くに医師がいない離島・へき地の患者と、日中の受診が難しい働くビジネスパーソンです。5Gが加われば、Webカメラ越しの内科診断や、スマホで撮影した患部の遠隔診察といった応用も期待されていました。

ハプティクスで広がる「触覚の共有」

5GでDtoP診断はどう変わる?
5Gの低遅延・大容量通信を使えば、遠隔地のロボットが触れた感触をグローブなどの機器へリアルタイムで伝えるハプティクス技術が実現するとされました。応用先として想定されたのが、遠隔触診や遠隔手術です。名医のいる病院まで足を運ばなくても、地元の病院で執刀を受けられる未来像が描かれていました。

個人の医療データ活用への期待

5Gの多接続性を活かし、家電やIoT機器と自分の医療データを連携させ、健康状態を自分で把握・管理しやすくなることも期待されていました。

【2026年最新】6年後の答え合わせ|どこまで実現したのか

ここまでは2020年当時に期待されていた「未来図」です。では実際のところ、6年が経った2026年8月時点で、どこまでが現実になったのでしょうか。制度・技術の両面から答え合わせをします。

遠隔医療と5G|制度と技術のあゆみ 2018 オンライン診療 が保険診療化 2020 コロナ禍で 初診オンライン特例 2022 初診からの オンライン診療が恒久化 2024 商用5G SAで 遠隔ロボット手術支援実証 2025 日仏間 約23,000kmの 遠隔手術実証に成功 2026 診療報酬改定で オンライン診療をさらに評価 青=制度面の動き/緑=技術・実証の動き

①オンライン診療は「特例」から「制度」になった

記事本文で触れた2018年の保険診療化のあと、大きな転機になったのが新型コロナウイルスの流行でした。2020年に初診からのオンライン診療が時限的な特例として認められ、2022年にはこれが恒久化されました。つまり「かかりつけ医に一度も会ったことがなくても、オンラインで初診を受けられる」ことが例外ではなくなったわけです。

さらに2026年度(令和8年度)の診療報酬改定では、オンライン診療の評価が一段と進みました。主な内容は次のとおりです。

  • 遠隔電子処方箋活用加算(月1回に限り10点)の新設
  • 看護師等遠隔診療注射実施料(1日につき100点)の新設
  • 電子的診療情報連携体制整備加算(最大15点)への再編
  • 対面診療との報酬格差の縮小(従来はオンラインが対面の約87%にとどまっていた)

注目すべきは、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった慢性疾患について、初診を対面で行ったあとの安定期のフォローアップをオンラインで完結できる方向で整理が進んでいる点です。2020年に「医療難民」として挙げた「日中働くビジネスパーソン」は、まさにこの慢性疾患の通院負担が重い層でした。制度は当時の想定にかなり近いところまで来ています。

②遠隔手術は「実証成功」の段階まで到達した

本文で「遠隔地から手術ができる時代も来るかもしれません」と書いた部分は、2026年時点で実証実験が成功する段階まで進みました。

2024年6月、神戸大学は国内初となる、安定した通信品質を確保する「5Gワイド」を用いた遠隔ロボット手術支援の実証実験に成功したと発表しました。国産の手術支援ロボット「hinotori」と術者用コンソールを神戸のMeDIP(医療機器研究開発・創出拠点)に設置し、商用の5G SA(スタンドアローン)回線とクラウド基盤を経由して接続する構成です(神戸大学ニュース)。

さらに2025年6月には、日本外科学会・メディカロイド・NTTコミュニケーションズが、日本(兵庫)とフランス(ストラスブールのIRCAD)を結ぶ約23,000kmの遠隔手術実証実験に成功しています。フランス側のコンソールを操作して、神戸に設置した手術ユニットを遠隔で動かしたものです(NTTドコモビジネス プレスリリース)。

ここで重要なのは、本記事が期待した「5Gの低遅延」だけで遠隔手術が成立したわけではないという点です。大陸間をまたぐような距離では、光の速度という物理的な制約から生じる伝送遅延が支配的になります。実際の取り組みでは、5G SAによる安定した無線区間の確保に加えて、優先制御されたネットワーク設計やロボット側の制御技術を組み合わせることで成立しています。5Gは「必要な条件の一つ」であって、単独の魔法ではありませんでした。

③「AIによる診断」は5Gとは別ルートで進んだ

本文では「AIによる診断には高精細な画像データの送受信が欠かせないため、5GによってAI診断の可能性が本格的に期待される」と書きました。

しかし実際にこの6年で起きたことは少し違います。医療AIの進歩は、通信の高速化よりも、AIモデル自体の性能向上と薬事承認の枠組み整備によってもたらされた部分が大きいというのが率直なところです。画像診断支援のプログラム医療機器は承認が進み、2026年度の診療報酬改定でもAI・ICT活用が評価項目として組み込まれています。

とはいえ、CTやMRIの大容量データを施設外のクラウドやAIに送る場面では通信基盤が効いてきます。5Gは「AI診断を生んだ技術」ではなく、「AI診断を病院の外へ広げるための土台」として機能している、と整理するのが2026年時点では正確です。

当時の予測と現在地の対応表

2020年当時の期待 2026年8月時点の現在地 評価
自宅から医師の診察を受けられる 初診からのオンライン診療が2022年に恒久化。慢性疾患のオンライン完結も整備が進む ◎ 実現
医師同士でCT・MRI画像を共有(DtoD) 遠隔読影サービスが定着。電子的な診療情報連携も診療報酬で評価される段階に ◎ 実現
AIによる診断で医師不足を補う 画像診断支援AIが実用段階へ。ただし主因は5GではなくAI自体の進歩と制度整備 ○ 別ルートで進展
遠隔地から手術を受けられる 5G SAを用いた実証に成功(2024年国内/2025年日仏間)。日常診療への実装はこれから △ 実証段階
ハプティクスによる遠隔触診 研究・実証は継続中。商用の遠隔触診サービスとしては未確立 △ 発展途上
ドローンが処方薬を運ぶ 離島・過疎地での配送実証は各地で行われているが、通常の選択肢にはなっていない △ 実証段階

これから何が焦点になるか

制度面のオンライン診療がほぼ整った現在、残る山は遠隔手術の社会実装です。技術的な成立が示された以上、次に問われるのは以下のような点になります。

  • 通信が途切れた場合の安全確保(フォールバック体制)をどう制度化するか
  • 執刀医が現地にいない手術について、責任の所在をどう定めるか
  • 手術支援ロボットと専用回線の導入費を、どの規模の病院まで負担できるか
  • 遠隔手術に対する診療報酬上の評価をどう設計するか

いずれも通信技術ではなく、制度と運用の設計の問題です。2020年に「技術ができれば実現する」と考えられていたことの多くは、実際には制度が追いついた順に実現してきました。遠隔手術もおそらく同じ経路をたどることになります。

まとめ

5Gが本格的拡充すると、医療は大きく変わります。

医師と患者、医師と医師の連携が強まり、医療技術や診断精度の向上が期待されます。

また遠隔医療は内科診断などの簡単なものだけでなく、手術にまで及ぶ可能性があるでしょう。

場所や時間を原因とした医療難民ないなくなり、皆が自宅から診療を受けることができるようになることも期待されます。

具体的にどのような形になるのかはまだ不透明です。

5Gが人口カバー率98.6%まで広がった2026年現在、オンライン診療は制度面でも定着し、少しくらいの風邪ならスマホから医師の診察を受けて処方薬を受け取ることが現実的な選択肢になりました。遠隔手術についても、5G SA(スタンドアローン)を用いた実証が2024年に国内で、2025年には日本とフランスを結ぶ形で成功しました。残る焦点は技術よりも、安全確保や責任の所在、診療報酬といった制度と運用の設計です。

※本記事は2020年公開の内容をもとに、オンライン診療の恒久化と2026年度診療報酬改定、5G SAを用いた遠隔手術の実証成果など2026年8月時点の最新情報に更新したものです。