以前ご紹介したとおり、5Gは決して万能の電波ではありませんし、唯一の次世代通信でもありません。
5Gは通信速度など、いくつかの点では突出して優れています。
しかし、別の強みを持った通信の活用競争も進んでいて、そのうちいくつかは実際に成果を挙げつつあります。
LPWAがその一つです。
LPWAの特徴や5Gと比較した長所、活用事例などについて詳しく解説していきます。
目次
LPWAとは? 5Gとは対極的な長所が
LPWAとは、簡単にいえば「広域、超省電力、超低価格」などの長所を持つ、特定の通信規格の総称です。
LPWAの通信速度は、5Gどころか、2世代前の3G 回線にすら太刀打ちできないほど低速です。
しかし、IoT機器の中には、それでも十分に機能するものが多くあります。
当然ですが、どっちでも機能するなら安い方が良いですよね?
LPWAは、特定のIoT機器に対して必要十分な通信を提供するものです。
5Gの特性が「高機能性を武器に、あらゆる機器を平行運用して、狭い環境を劇的に作り替える」ことだとしたら、LPWAは「安さを武器に、単純な機器を飽和運用して、数の力で広い環境を作り替える」ことを得意としています。5GとLPWAは、運用コンセプトからして全く違うもの、と考えてください。
民間レベルへの普及を考えたとき、安さと手軽さは最大の影響要因ですから、世界の通信の主役は、ひょっとすると5GではなくLPWAになるかもしれません。
業界団体のGSMAは「2022年までに50億台のデバイスがLPWAに接続される」と予測しています。
LPWAはどれくらい安いのか?
LPWAの通信料はまさに破格です。
キャリアやプランによっては、デバイスあたり月10円前後から運用できます。
通信電力も低いため、デバイスの多くは電池式で、電池交換なし、メンテナンスなしで数年稼働するよう設計されています。
5Gの料金プランはまだ明らかにされていませんが、4Gを下回ることは考えにくく、一般にはランニングコストはLPWAが圧倒的に優位になるでしょう。
LPWAでできること
LPWAでできることは、個別に見れば、実は地味なものが多いです。
というのも、通信速度は遅いので、やろうと思えば既存の技術で実現できたものだからです。
それでも、広範囲で運用して、レゴブロックのように組み合わせて使うことで、トータルでは5Gにも劣らない成果を上げることができます。
以下にその一例をご紹介します。
ビニールハウス内の環境管理ソリューション「jwp IoT Platform」
農業は5Gの活用が期待されている分野の一つですが、LPWAには、5Gに先駆けて成果を上げているIoTサービスがあります。
それがこのjwp IoT Platformです。
jwp IoT Platformサービスを利用する農園は、ビニールハウス内に専用のセンサデバイスを設置します。
デバイスは、温度・湿度・日射量・二酸化炭素濃度などのデータを常時習得しています。
従来の農業では、これらのデータは管理者が巡回して確認していました。
蓄積されたデータはクラウド上で統合され、AIの学習に利用されます。
つまり、全国の農園から集めた経験知に基づいて、AIがハウス内の環境を最適に制御します。
株式会社ジョイ・ワールド・パシフィックは実証実験において、この環境管理が収量を30%向上させた。と発表しています。
ワイヤレスひずみモニタリングシステム「 ST COMM 」
参考:CACH株式会社
インフラの点検は、いまだに大部分を作業員の目視に頼っています。
そのため、遠隔地の確認にはコストがかかりますし、点検のスパンも長くならざるをえません。
老朽化が進むインフラの維持管理は日本の社会問題です。
実際、不十分な管理により、トンネルの天板が崩落する事故もありました。
ST COMMは、設置した構造物を常時監視し、肉眼では確認できない応力やわずかなひずみも検出・報告する省電力センサーです。
インフラは、最適なタイミングで補修すれば整備費を大幅に抑えられるので、国や自治体を救うシステムになるかもしれません。
もちろん、民間の建物や工事現場などでも利用できます。
事故や災害を防ぐには、定点を常時観測して予兆を掴むことが重要です。
LPWA通信はこの種の静的な監視に向いています。
他に、傾斜や衝撃を検知して災害危険個所の異常を知らせる「SLIMS-ST」(JR西日本コンサルタンツ)や、氾濫の危険がある河川をモニタリングする水位計(オサシテクノス)など、多くのデバイスが開発されています。
まとめ
LPWAのポイントは以下の通りです。
- 通信速度では5Gが圧倒。ただ、LPWAは通信コストがべらぼうに低い。
- センサーなど、静的な通信にはLPWAで十分。
- 2022年までに、50億台のデバイスがLPWAで繋がると予測されている。
「あらゆるものがインターネットに繋がる」IoT社会は、「あらゆるものに繋げられるほど維持費や通信料が安い」LPWA通信がなければ実現できない、といっても過言ではありません。
華々しく取り沙汰される5G関連ニュースの裏で、LPWAは着実に成長を続けています。