【2026年8月 追記】
本記事で取り上げる「新型コロナウイルスは5Gが原因」とする主張は、科学的根拠のない陰謀論です。世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス流行当初から公式に「ウイルスは電波や携帯電話網を通じて移動することはできない」と明言しており、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)も「5G由来の電磁界ばく露が新型コロナウイルス感染症を引き起こしたり、その症状・経過に影響を与えたりすることはない」との見解を示しています。総務省の公表データによれば、日本国内の5G契約数は2026年3月末時点で約1億2,632万件に達していますが、5G電波による健康被害を裏付ける科学的知見は確認されておらず、国際的な電波防護ガイドライン(ICNIRP基準)に基づく安全基準は現在も維持されています。記事末尾に、この陰謀論がなぜ科学的に成り立たないかを詳しく解説する追記セクションを設けています。
2020年8月9日、渋谷で「クラスターフェス」なる集会が開催され、大きな批判を呼びました。参加者の一部はノーマスクで山手線に乗り込むなど迷惑行為に及び、この背景には「新型コロナウイルスは5Gが広げている」という陰謀論も関係していました。クラスターフェスの概要と、5G陰謀論との関係を解説します。
目次
批判殺到のクラスターフェスとは?
クラスターフェスとは「コロナはただの風邪」と主張する政治団体が渋谷で開いた集会です。集会に加え、ノーマスクで山手線に乗車するという行為が大きな批判を浴びました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開催日 | 2020年8月9日 |
| 場所 | 渋谷ハチ公前 |
| 主催 | 国民主権党(代表:平塚正幸氏) |
| 掲げた主張 | 「マスク・ソーシャルディスタンス・3密回避・自粛は不要」 |
| 問題行動 | ノーマスクでの山手線一周デモを計画(実施は中止、一部参加者が乗車する様子がSNSに拡散) |
| 反響 | 「ノーマスク・山手線」動画に1日で6,500件の低評価。地上波(TBS「あさチャン!」等)でも報道 |
このクラスターフェスは過去にも複数回開催されており、名目は「自粛要請やマスクに反対する運動でクラブハウスなどを救う」というものでした。集団でのマスクなし乗車は、感染者がいた場合に他の乗客へ感染を広げかねない行為であり、批判は免れません。
主催者は都知事選出馬の平塚正幸氏
都知事選出馬の平塚正幸氏主催の平塚正幸氏は、2020年7月の東京都知事選に「コロナはただの風邪」というポスターで出馬した国民主権党の代表です。元々はNHKから国民を守る党の候補として2019年参院選に出馬しましたが、党内対立から離党し国民主権党を設立しました。「新型コロナウイルスはメディアが作り出したもの」との主張のほか、マスク着用を求める施設への抗議行動をたびたびYouTubeで公開しています。
クラスターフェスに集まるのは5G反対論者?
クラスターフェスの参加者には、5Gと新型コロナウイルスの関係性を訴えるTシャツを着た人が多数見られました。「新型コロナウイルスは5Gが原因」という世界的な陰謀論の賛同者が参加していたことは事実のようです。
「コロナの正体は5G」Tシャツ
Tシャツの背中には「目を覚ませ。コロナはフェイク。ニュースもフェイク。コロナの正体5G」と記載されていました。5Gの危険性を唱え、電波塔への放火事件にまで発展した海外の陰謀論と同根の主張です。
【5Gが新型コロナウイルスを広げた】アメリカでも広がるデマと暴動を解説
代表者はコロナと5Gの関連性を否定
クラスターフェス主催者の平塚氏自身は、自身のYouTubeで「コロナ自体がフェイクなのだから5Gとの関連性もない」という独自の論理でコロナと5Gの関連性を否定しています。一方で「5Gのような高周波電波が人体へ悪影響を及ぼし免疫力を低下させる」という一般的な5G危険論は主張しており、いずれも科学的根拠のない話です。
5G反対論者の主張と、その矛盾
科学的根拠はありませんが、5G反対論者がクラスターフェスに参加する理由には一応の「論理」があります。
| 主張 | 実際のところ |
|---|---|
| 5Gの開始エリアと感染拡大エリアが似ている | 単に人口密集地から5Gも感染も広がっただけ(相関と因果の混同) |
| 5Gを放置してコロナ対策だけしても無意味だからマスクは不要 | 前提となる5G原因説自体が誤り |
実際、新型コロナウイルスの感染が早期に深刻化したイランでは、当時5Gは導入されていませんでした。これらの主張の詳細は以下の記事にまとめています。
5Gの電波がコロナを広げた?イギリスで流布された背景や噂の根拠
いずれも根拠のない陰謀論
今回のクラスターフェスは、次の2つの矛盾した主張が根拠となって人が集まったものでした。
- コロナはただの風邪
- コロナは5Gが拡散させている
「コロナはただの風邪」なら「5Gがコロナを広げている」という主張とは論理的に矛盾します。つまりクラスターフェス参加者の主張は最初から矛盾しており、いずれも科学的根拠のない陰謀論です。少数派の主張を通すためにノーマスクで公共交通機関に乗るような実力行使は、テロ行為と同様に非難されるべき行動です。
【追記】なぜ「5Gがコロナを広げる」は科学的にあり得ないのか
クラスターフェスに5G陰謀論者が集まっていた事実を紹介しましたが、ここで改めて「5Gと新型コロナウイルスに因果関係はない」という科学的根拠を整理します。
電波(5G)は電離放射線ではない
5Gが使う電波は、マイクロ波からミリ波帯(おおよそ数百MHz〜数十GHz程度)の電磁波であり、非電離放射線に分類されます。非電離放射線は光子1個のエネルギーが小さく、原子や分子の結合(化学結合やDNAの構造)を切断する力を持ちません。DNAを損傷させる力を持つのは、紫外線の一部より高エネルギーの「電離放射線」(X線・ガンマ線など)であり、5Gの電波はそれよりエネルギーが桁違いに小さく、ウイルスの遺伝情報を書き換えたり人体の細胞に生物学的変化を起こす物理的メカニズムが存在しません。
ウイルスは電波に乗って移動しない
WHOは新型コロナウイルスの流行当初から、公式の「神話バスター(Myth busters)」ページで「ウイルスは電波や携帯電話網を通じて移動することはできない。新型コロナウイルスは、5G携帯電話網が存在しない多くの国でも感染が拡大している」と明言しています。新型コロナウイルスは咳・くしゃみ・会話による飛沫や、汚染された物の表面に触れた手で目・鼻・口に触れることで感染するのであり、電波を媒介にウイルス粒子が移動する経路はウイルス学的にも工学的にも存在しません。ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)も「5G由来の電磁界ばく露が新型コロナウイルス感染症を引き起こしたり、症状・経過に影響を与えたりすることはない」と明言しています。
「相関」と「因果」の取り違え
5G反対論者は「5Gの先行導入エリアと感染拡大エリアが似ている」ことを根拠にしていますが、これは「相関を因果と取り違える」典型的な誤りです。5Gは人口が多く経済活動が活発な大都市から導入されるため、人の移動や接触が多い場所で感染症も広がりやすいというだけで、両者には人口密集という共通の原因があるにすぎません。感染が世界で最も早期に深刻化した国の一つであるイランでは、当時5Gは導入されていませんでした。
陰謀論がもたらした実害
2020年、5Gと新型コロナウイルスを結びつける陰謀論が広がったイギリスでは、携帯電話基地局を狙った放火・破壊事件が相次ぎました。業界団体GSMA/ETNOの集計では、イギリス国内だけで60件超の基地局への放火・破壊行為と、80件近い保守作業員への嫌がらせが報告されています。新型コロナ患者を受け入れていたバーミンガムの野戦病院への通信を支えていた基地局が被害を受けたケースもありました。英国の独立ファクトチェック団体Full Factも「5G技術が人体に危険を及ぼすという主張には根拠がなく、5G網が存在しない国でも新型コロナウイルスは広範囲に拡大している」とこれらを明確に否定しています。
学術研究(International Journal of Data Science and Analytics誌に掲載された5G・新型コロナ陰謀論の長期観測研究など)でも、この種のデマがSNS上で断続的に再燃を繰り返す「デジタル・ワイルドファイア」的な性質を持つことが指摘されています。クラスターフェスは2020年当時の事例ですが、根っこにある誤解は形を変えて現在も拡散され得る点に留意が必要です。実際、イギリス・北アイルランドのウェスト・ベルファストでは2023年以降も5G基地局への放火が続き、被害額は約400万ポンドに達しました。警察はSNS上で陰謀論を共有する「ネットワーク」による連続犯行とみており、2025年9月と2026年4月にそれぞれ複数の男が訴追されています。この陰謀論が生む実害は、6年以上が経過した現在も終わっていません。
| 機関 | 見解 |
|---|---|
| 世界保健機関(WHO) | ウイルスは電波や携帯電話網を通じて移動することはできない。5G網がない国でも感染は拡大している。 |
| 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP) | 5Gによる電磁界ばく露が新型コロナウイルス感染症を引き起こす、または症状・経過に影響を与えることはない。 |
| Full Fact(英・独立ファクトチェック団体) | 5G技術が人体に危険を及ぼすという主張に根拠はなく、5Gのない国でも感染は広範囲に拡大している。 |
「コロナはただの風邪」という主張と「コロナは5Gが原因」という主張は、本文で述べた通り論理的に矛盾している上に、後者は国際的な保健・電波防護の専門機関によって明確に否定された陰謀論です。非電離放射線である5Gの電波には、ウイルスの遺伝情報を書き換えたり人体の免疫機構に生物学的変化を起こしたりするエネルギーも仕組みも存在しません。科学的根拠のない情報を鵜呑みにして基地局への攻撃や迷惑行為に及ぶことは、社会インフラを毀損する実害を伴う行為です。当メディアは今後もこうした陰謀論を根拠とともに否定し続けます。
※本記事は2020年8月に公開した内容をもとに、WHO・ICNIRPの見解およびその後の被害の推移など2026年8月時点の最新情報を追記して更新したものです。