国際的に5Gを巡る健康被害の議論は絶えることはありません。
イギリスでは5G基地局を放火する騒ぎまで起きていますが、このたび、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が新しいガイドラインを公表し、「5Gは健康に影響がない」ということを結論づけました。
これまでは政府などが中心となって5Gの健康被害を否定してきましたが、ICNIRPという比較的中立性の高い組織が発表したガイドラインの中に5Gと健康被害の関係性を否定したことに注目が集まっています。
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が発表したガイドラインの中身と、5Gの健康被害への懸念が消えるかどうかを考察していきます。
目次
5G電波には過度の健康リスクがないとの結論を公表
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が2020年に発表した新しいガイドラインでは、5Gは健康リスクとは無関係であると発表されました。
これによって、5Gと健康被害の論争に一定の終止符が打たれることが期待されています。
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)とはどのような組織で、ガイドラインの中身にはどのようなことが記載されていたのか、詳しく解説していきます。
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)とは
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)とは1992年に国際放射線防護協会(IRPA)によってドイツで設立された非営利科学機関です。
ICNIRPの役割は、非電離放射線(ラジオ、マイクロ波、UV、赤外線等)の保護ガイダンスを提供するため研究や評価を行うことにあります。
ICNIRPは、疫学、生物学、医学、物理学と線量測定、光放射の分野をカバーする委員会で構成されており、メンバーは大学や放射線防護機関の科学者です。
大きなポイントはICNIRPのメンバーは出身国や研究所を代表しておらず、さらに営利会社に雇用されることはできないという点です。
そのため、ICNIRPは完全に中立な立場で非電離放射線(ラジオ、マイクロ波、UV、赤外線等)を評価することができるのです。
そのICNIRPが「5Gの電波は健康リスクがない」と公表したことには大きな意味があると言えるでしょう。
2020年のガイドラインでは5Gの健康被害はないと結論
ICNIRPのガイドライン策定の際の報道発表でICNIRP議長のEric van Rongen博士は以下のように述べています。
我々は、5Gの安全性が懸念されていることを承知しており、この改定されたガイドラインが人々に安心感を与えることを望んでいます。
〜中略〜
新ガイドラインは、特に6GHz超のより高い周波数範囲に対し、より良い、より詳細なばく露ガイダンスを提示するものであり、このことは、そうした高い周波数を用いる5G及び将来の技術にとって重要です。人々にとって覚えておくべき最も重要なことは、この新ガイドラインを遵守している限り、5G技術が害を生じることはあり得ない、ということです。
ICNIRPはICNIRPが提供するガイドラインさえ守っていれば6GHz超の高周波の電波であっても人体に悪影響することはないと結論付けています。
非電離放射線の国際機関であるICNIRPが人体への悪影響を否定したことは、5Gの健康被害に対する反論としては大きな意味を持つものだと言えるでしょう。
5Gを巡る健康被害の噂とは
5Gを巡る健康被害の噂にはどのようなものがあったのか、少しおさらいしておきましょう。
状況証拠的に「5Gには健康被害がある」と噂されているものと、都市伝説的なものが多くなっています。
高周波が免疫力を低下させる
高周波の電波を人体に浴びると免疫力が低下するとの主張があります。
例えば、以下のような事象は5Gの高周波の電磁波が原因と起きていると主張されています。
- 過去20年間で地球上から昆虫の80%が死滅した。もし5Gが本格稼働すれば100%が死に絶える。
- 2018年にオランダのハーグでムクドリが5Gの影響で大量死
- 妊娠中の牛が電磁波を発する基地局の近くにいると、生まれた253頭の子牛のうち32%に当たる79頭が白内障に罹患
もちろん、上記の事実と5Gの電波について有力が科学的な根拠があるわけではありません。
しかし、5Gの電波に関しては高周波が免疫力を低下させ、上記のような事象が実在すると信じている人がいるのも確かです。
5Gがコロナウイルス感染を拡大させている
また、新型コロナウイルスも5Gの影響によるものという都市伝説も多くの人が信じています。
その原因としては以下のようなことが考えられているようです。
- 新型コロナウイルス発症の地である中国武官は中国の5Gの一大拠点
- 世界の5Gのエリアマップと感染拡大地域のエリアマップが酷似している
- ダイヤモンドプリンセス号の船内にはミリ波が使用されていた
などなど、5Gのサービス開始と新型コロナウイルスの感染拡大の時期がちょうど被ってしまったため、この話はテレビ番組でも話題になり、広く知られる都市伝説となりました。
実際にこの話を信じたイギリスの団体が5Gの基地局を放火するという事件にも発展しています。
この話が本当であれば、5Gが敷設されていない国では新型コロナウイルスの感染は広がらないはずですが、5Gが始まっていないイランは世界の中でも最も最初に新型コロナウイルスの感染が広がった地域の1つです。
やはり根拠のない噂と考えた方が無難でしょう。
ガイドラインが出ても健康被害の懸念が消えない2つの理由
いくらICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)がガイドラインの中で5Gには健康被害がないと公表したとしても、おそらく世界中で5Gが当たり前のように使われ、健康には全く問題がないことが人間の身をもって証明されない限りは、今の段階では懸念が消えることはないでしょう。
その理由は以下の2つです。
- 科学的検証よりも状況証拠を5Gに結びつけているから
- 専門家にも健康被害を懸念する声があるから
5Gの健康被害に対する懸念が消えない2つの理由について詳しく解説していきます。
科学的検証よりも状況証拠を5Gに結びつけているから
5Gと健康被害の関係については、有力な科学的根拠はありません。
むしろ、科学的根拠に基づき主張しているのは「5Gは健康被害がない」と主張している側になりますが、それでも5Gと健康被害の関係を主張する意見は消えないでしょう。
彼らは、5Gのエリアマップと新型コロナウイルスの感染拡大地域のエリアマップが酷似するというような状況証拠だけを結びつけています。
世の中の不可思議な状況を「5Gのせいだ」と主張しているため、科学的根拠をもって「5Gに健康被害はない」と主張しても、健康被害への懸念は消えることはないでしょう。
専門家にも健康被害を懸念する声があるから
また、科学者の中にも5Gの健康被害を懸念する声があるのも事実です。
- ハーバード大学を退職した応用物理学のロナルド・パウウェル博士
- ワシントン州立大学の名誉教授で生化学の専門家マーティン・ポール博士
- イスラエルのアリエル大学で物理学を教えるベン・イシャイ博士
などの専門家は5Gの健康への悪影響について懸念を表明していますし、このような声を受けてアメリカの一部自治体は5G基地局の建設をストップしているところも存在します。
また、スイスでは国民的な5G反対運動を受けて、国全体でも5G基地局建設を一時ストップしている状況です。
健康被害を懸念する側にも科学的な主張があるので、やはりいくらICNIRPが健康被害を否定したとしても懸念を完全に払拭するまでには至らないでしょう。
まとめ
非電離放射線の専門研究機関であるICNIRPが5Gの健康被害はないという発表をしました。
中立性の高い専門機関が健康被害がないということを発表したことは、5Gが健康被害がないことを裏付ける非常に大きな材料だといえます。
しかし、これでも5Gの健康被害を懸念する声が消えることはないでしょう。
5Gの健康被害はもはや都市伝説化して多くの人に信じられています。
思えば4G LTEの時にも同じく健康被害を指摘する声がありましたが、4G LTEの普及によってその声はどこかに行ってしまいました。
今後5Gが多くの人に普及し、健康被害がないことを5G自ら証明することができない限りはこの論争と懸念は続くでしょう。
ただし、今回の発表によって、客観的に考えれば「5Gは健康には害はない」と結論付けてもよいのではないでしょうか?