今年はいよいよ5Gサービスが始まります。
地域課題解決の切り札、とも言われるサービスだけあって、なんとかして活用したいと考えている自治体は多いでしょう。
筆者は九州のある地方自治体の職員ですが、私の所属する自治体でも、やはり対策チームが作られています。
独自の利活用方法を検討しているようですが、ガイドライン以上の案などそうそう出るはずもなく、苦慮している様子が伺えます。
しかし、そもそも「5Gが地方の課題を解決する」という謳い文句は本当なのでしょうか
過疎の進んだ地域に、そのような最新技術がちゃんと整備されるのでしょうか?
この記事では、5Gの全国展開に向けた国の取り組みと、各キャリアの反応。
そして「ローカル5G」について解説しながら、5Gが地方に与えるインパクトについて考察していきます。
目次
国は地方への5G普及を目指している
5Gに関しては、国は地方展開に向けて一定の取り組みをしています。
これまで、サービスの評価指標には主に人口カバー率が使われていました。
しかし、それでは人口密集地にのみ整備が集中し、地方は放置されてしまう恐れがあります。
そこで、国は2年以内の全都道府県でのサービス開始を義務付け、開始時期を評価に組み込むなど、新たな評価の仕組みを作りました。
また、地方における5G活用の可能性を探るため、アイディアコンテストや実証実験を積極的に行っています。
例えば和歌山では、低遅延を生かした遠隔医療が試されました。
あくまでも5Gを活用したい事業者が主役ですが、諸外国との競争を意識し、相応の危機感を持って進めている様子が伺えます。
国の地方への5G普及策 |
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各キャリアの地方への5G普及に対する反応は?
周波数の割り当てを受けた4社(NTTドコモ/KDDI/ソフトバンク/楽天)は、5年以内に計9万件の基地局を建設する計画を発表しています。
ただし、各社の熱意には、数字上はかなり差があるのが現実です。
日本を10㎞四方のメッシュに区切ったとき、範囲内に1つ以上基地があるメッシュの割合である基盤展開率でエリアのカバー率を算出することができます。
ここから各キャリアの5G普及に対する態度がうかがえます。
ドコモとKDDIは積極的
NTTドコモとKDDIは基盤展開率が非常に高く、インフラを担う企業としての社会的責任感を持っているように思えます。
ただ、5Gの場合、電波のカバー範囲に弱点があるため、10㎞四方に1つ基地がある程度では、4Gのような開かれた使い方はできません。
KDDIは基地局数の確保に特に意欲を見せていますが、それでも全くもって足りていません。
したがって、地方においては、農地や工場など、産業振興に繋がる限定的なエリアでの運用が想定されているものと思われます。
ソフトバンクと楽天は。。
一方ソフトバンクと楽天は、基盤展開率は低水準に収まっています。
もともと基盤展開率50%以上を義務付けられていますから、最低限のラインは超えてきたというレベルです。
日本の山林の割合を考えれば十分といえば十分ですが、中規模未満の都市では配備されないか、されても形式的な配備に留まる可能性があります。
楽天は、基盤展開率の割に基地数が多いので、開設エリア内での基地局密度は高いといえますが、計画が楽観的すぎるとの指摘もあり、青写真通りに進むかは不透明な状況です。
キャリアごとの基盤展開率は2024年の目標値で以下のようになります。
国の基盤展開率目標 | 50.0%以上 |
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NTTドコモ | 97.0% |
KDDI | 93.2% |
ソフトバンク | 64.0% |
楽天モバイル | 56.1% |
地方でも5Gを先取りできる「ローカル5G」とは?
以上の通り、国は5Gの地方配備のために一定の工夫をしていますが、そもそも基地局数が絶対的に足りないため、楽観はできません。
営利企業が運営する回線ですから、経済的に有利な地域が優先されるのは必然といえます
自分の地域でサービスが始まったら活用しよう、と思って待っていたら、知らないうちにメッシュ内の離れたところに基地が立っていて、それ以上配備される見通しはない、というオチになりかねません。
そこで注目を浴びているのが、大手4社の管理する電波の外で、独自に5Gネットワークを築ける「ローカル5G」サービスです。
ローカル5Gは、現時点では運用できる周波数帯が狭いため、理論上の通信速度はオープンな5G回線に劣ります。
それでも、4Gと比べれば相当に早いですし、低遅延、多数同時接続可能という特徴は変わらないので、ほぼ同じように使えるといっても良いでしょう。
例えば工場など、多数のデバイスの連携が重要な場所で導入メリットが特に大きくなります。(※その他の利活用例については、別の記事でご紹介します)
一般に、無線局の運用には免許が必要です。
これはローカル5Gも例外ではありません。
2種類の免許の取得が求められますが、必ずしも自社で取る必要はなく、代行業者(富士通、NECなど)への委託も認められています。
電波利用料も1基地あたり年2万円程度しかかかりません。
概して、地方にも自力で5Gを呼び込む方法が確保されていると評価してもいいでしょう
ただ、5G対応のデバイスがまだ高価なので、明確なビジョンと戦略を持った組織でなければ設備投資には踏み切れないかもしれません。
ローカル5Gの特徴 |
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5Gが地方と都市部に与える影響
「5Gは地方課題解決の切り札」と言われるように、本当に5Gによって地方と都市の格差は埋まるのでしょうか?
短期的には5Gによって都市と地方の格差は広がる
5Gが今の4Gのように全国レベルで普及するのはまだまだ先だと思われます。
ただし、十分な基地局が確保できる都市部では、2020年度中から家庭でも5Gを利用できる可能性があります。
その場合、5Gの魅力は、そのまま都市部の魅力になるでしょう。
結果、地方と都市部の魅力格差は更に大きくなり、消費や人口の流出は一時的に加速すると予測されます。(地方では、農業等に活用する案が出ていますが、もちろん、ほとんどの若者は、都市部でリッチコンテンツに触れたいと思うはずです)
また、地方の中でも、中核市や駅前など5Gコンテンツが体験できるエリアと、それ以外のエリアの価値の差が広がると考えられ、過疎地域はますます苦境に立たされるでしょう。
地方は将来を見据えインフラ投資を
しかし「物理的に疎である」という不利を解決するのも、やはり通信サービスです。
超高速通信が充分に整備され、現地に行かなくても仕事ができたり、最新のコンテンツを楽しめたりするようになれば、都会に住む理由は薄れます。
それどころか、都市部の情報産業が場所に縛られない一方、二次以下の産業は地方が有利なので、地方への人口還流も起こりえます。
その時を見据えて、堅実なインフラ投資で住みよい街を維持していくことが、地方自治体が生き残る道になるでしょう。